鐘の音とともに──富良野「カンパーナ」で締めくくる北海道の旅

北海道を発つとき、最後に立ち寄る場所はたいてい富良野の「カンパーナ」だ。
「カンパーナ」とはスペイン語で鐘のこと。敷地の中央にそびえる鐘楼が、その名のとおりのシンボルになっている。

今回、初めて正午の鐘の音を聴いた。澄んだ空気の中に響くその音は、旅の終わりを告げる合図のようでもあり、心の奥に残った。
テラスからは、十勝岳を遠くに望むことができる。
この場所に立たなければ、北海道を味わい尽くしたとは言えない気がする。

北海道の魅力は食の豊かさにもあるけれど、それ以上に心を奪われるのは、やはりこの広々とした風景だ。
十勝岳からカンパーナまでは、およそ4、50キロほどだろうか。
その距離を隔ててもなお迫ってくるような雄大な景観が、まさに北海道そのものを象徴している。
初めてこのテラスに立った日のことを、今でもよく覚えている。
できたてのケーキとコーヒーを味わいながら、ゆっくりと空港へ向かったあの時間。
旅の終わりにふさわしい、穏やかなひとときだった。
今回は少し早めのお昼にした。
ここの「智宏風ハヤシライス」は、やはり外せない。

シャキシャキの玉ねぎと、たっぷりの牛肉。ほんのり甘みを帯びた濃厚なソースが絶妙で、スプーンを進める手が止まらない。
「智宏風」とは、帯広で洋食文化を根付かせた「レストラン・ホーム」のオーナーシェフ、井出智宏さんの直伝メニューなのだそうだ。
そう聞くと、さらに味わい深く感じる。
敷地内には「神々の遊ぶ庭」と名づけられた美術館も併設されている。
ちょうど、写真家・綿引幸造さんによる「安田侃の彫刻」写真展が開かれていた。
けれど、ギャラリーに入ってまず目に飛び込んでくるのは、壁にかけられた写真ではなく、窓の向こうに広がる本物の「神々の遊ぶ庭」だ。

自然の雄大さの前では、人の手によるどんな芸術も一歩譲るように見える。
テラスで風を感じ、景色を心ゆくまで眺めてから空港へ向かった。
そのときには、もう心の充電はすっかり満たされていた。
鐘の音とともに旅を締めくくる──そんな静かな幸福が、ここ「カンパーナ」にはある。
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