九州の空気と門司港の焼きカレー

姉母の五年祭に向かう旅の二日目、我々は関門海峡を夕方に渡り、九州へと入った。姪と私にとって九州は懐かしい土地である。車で関門橋を越えた瞬間、二人して「九州の空気は違う」と声をあげ、運転をしていた家人に笑われた。
九州の玄関口である門司港は、レトロな佇まいの駅を中心に整備された観光地として知られている。この地域一帯は、かつて外国貿易で栄えた時代の建造物を生かし、大正ロマンを意識したデザインで再構築された。ホテルや商業施設もその一部であり、国土交通省の「都市景観100選」や、土木学会デザイン賞2001の最優秀賞に輝くなど、高い評価を受けている。
門司港といえば、名物に「焼きカレー」があるそうだ。私がその存在を知ったのは最近であるが、今回の旅ではぜひ味わいたいと心に決めていた。インターネットで調べた際には、店は一軒だけのように思っていた。だが現地に到着してみると、「焼きカレー」の看板はあちらこちらにあり、それだけ地元の誇りでもあるのだろう。
駐車場を探しつつ、ネットで見つけた目当ての店を探し回るうちに、空は茜色に染まり始め、やがて日は暮れていった。ようやく辿り着いたその店は、港に面した小さなビルの二階にあった。数ある店の中から、わざわざ階段を上らねばならない場所を選んでしまったことに、少し運のなさを感じた。
しかし、店内に入るとその不安は払拭された。若い男性スタッフが元気に働く、活気あふれる空間であった。客層もまた若く、エネルギーに満ちていた。私は本来「瓦そば」を食す予定であったが、初めての「焼きカレー」に心が惹かれていたこともあり、迷いなく注文した。
やがて運ばれてきた焼きカレーを見て、姪が「カレーのグラタン?」と声をあげた。言われてみればその通りである。熱々の鉄皿に盛られたカレーの上に、チーズと卵がとろりと乗り、オーブンで焼き上げられていた。その姿は確かにグラタンのようでもあり、初めて目にする者には意外な印象を与える。しかし、スプーンを入れた瞬間、香ばしさとともに広がる味わいは、まさに唯一無二の門司港の名物であった。
食後、店を出ると門司港駅はすっかり夜の帳に包まれていた。ライトアップされた駅舎は幻想的な雰囲気を醸し出し、まるで時代を遡ったかのような趣であった。少し肌寒い春の宵であったが、駅前では結婚式の前撮りとおぼしき写真撮影が行われており、幸せそうな姿に居合わせたみんなの視線が注がれていた。
九州の空気、門司港駅の美しさ、そして焼きカレーとの出会い。すべてが私の記憶に刻まれた。
小倉のホテルへ向かう車中、姪と共に今日の出来事を振り返りながら、九州の懐かしさに胸を満たされたのである。
コメント
この記事へのトラックバックはありません。
この記事へのコメントはありません。