津和野にて、安野光雅の世界を歩く

津和野を訪れるのは、これで何度目になるだろうか。博多に暮らしていた頃を含め、数度この小さな町に足を運んでいる。その度に町の佇まいに惹かれ、石畳の小径や掘割に泳ぐ鯉、山間に抱かれた城下町の空気を味わってきた。

津和野といえば、安野光雅のふるさとである。絵本作家、画家として国内外で高く評価された彼の美術館が、この町に建てられて久しい。これまでの訪問では、美術館そのものの印象はあまり強く残っていなかった。それは、おそらく私が津和野という町の風景そのものに心を奪われていたためであろう。
津和野の風景は、そのまま彼の絵の世界であった。

今回、あらためて安野光雅美術館を鑑賞した。訪問時には「リクエスト作品展 I」が開催されており、これまでの展覧会の中でも来館者から特に人気の高かった作品が選ばれて展示されていた。

第1期の第1展示室では、安野光雅の代表作のひとつ「すうがくの絵本」シリーズより『ふしぎなたね』をはじめとする作品が展示されていた。数学という一見堅苦しい概念を、詩情豊かな絵と共にやわらかく語るその世界観は、子どもだけでなく大人の心も惹きつけてやまない。また、安野が長年にわたり描き続けた風景画の中から、故郷・津和野をはじめ、世界各地を旅して描かれたスケッチ作品も多数展示されていた。それらは写実と空想が混在する独特のタッチで、観る者を異国の情景へといざなってくれる。

第2展示室では、安野光雅作品の熱心なコレクターである松原茂氏による寄託コレクションから、選りすぐりの原画が展示されていた。絵本で親しんできた作品の「原画」を前にすると、その筆遣いや独特の色彩に、まるで別物を見ているかのような驚きと感動を覚える。印刷では伝えきれない、絵具のにじみや紙の質感がそこに残されていた。
美術館は、第1、第2展示室のある展示棟と、昭和初期の学校を再現した昔の教室やプラネタリウム、安野光雅著作図書や色々な絵本を揃えた図書室、安野の自宅を再現したアトリエがある学習棟も併設されて見応えのある美術館だった。

美術館の建物もまた、津和野の風景に溶け込むように設計されている。赤褐色の屋根と落ち着いた白壁は、かつての藩校・養老館跡地にふさわしい品格を備えており、川沿いの静かな立地と相まって、訪れる者に穏やかな時間を提供してくれる。内部は明るく、自然光を生かした展示空間が作品との距離を心地よく保っている。

美術館を出て、ふと振り返ると、建物もまた一枚の風景画のように佇んでいた。安野光雅の芸術は、絵の中だけでなく、町そのものの中にも生きているのだと感じた。

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