比良の空に響く、コカリナの調べ 「ほっとすてーしょん」にて春の風とともに――

久方ぶりに、湖西線・比良駅前に位置する「ほっとすてーしょん」を訪れた。
ここは、私がgallery skogを開いた当初、真っ先に足を運んだ思い出深き場所である。以来二十年、この比良の地にて多くの友情を育んできた。
昨日、「ほっとすてーしょん」では、「ほっとらいん」によるピクニックコンサートが催された。
「ほっとらいん」は、ご夫婦による音楽ユニットであり、琵琶湖の葦(よし)から作られた「ヨシ笛」と、木製の小さな笛「コカリナ」を奏でる奥様と、その音色を柔らかなギターで支える旦那様との絶妙な調和が魅力である。
ご夫婦は、演奏会をホールの中に限らず、畑の中や野の風の吹く場所で開くことがある。思えば、私がこれまでに足を運んだのも、いつも「畑の中の演奏会」であった。
本日の比良には、春の嵐が吹き荒れていた。
用意されたテントは風に煽られ、帽子は空を舞い、日傘はまるで風の花のように開いた。そんな中でも演奏は中止されることなく始まった。
風にかき消されやすいヨシ笛に代わり、この日はコカリナが用いられた。
開演の一曲目は「アメイジングソング」であった。
その軽やかな高音は比良の山々にこだまし、青く晴れわたった空へと吸い込まれていくかのように響いた。
比良の空気が、音楽を受け入れ、音楽と一体となって空へと昇っていくような感覚であった。びわ湖バレーの山頂まではっきりと見える快晴であり、飛行機が影を引きながら空を横切っていた。
演奏は軽妙なご夫婦のやり取りを交えつつ進行し、ときに夫婦漫才かと錯覚させる場面すらあった。観客は音楽と笑いのどちらにも耳を傾け、心を和ませていた。
続いて奏でられたのは、懐かしき「ビートルズのナンバー」であった。
そして最後に、「琵琶湖周航の歌」が披露され、30分間の演奏会は幕を閉じた。
演奏が終わった後、私はふとこう思った。
比良のこの空気は、「ヨシ笛」や「コカリナ」のために存在しているのではないかと。
この地の風、この空、この光こそが、彼らの音楽を最も自然なかたちで包み込んでいるのである。
比良という、私にとって特別な場所にて聴く「ほっとらいん」の演奏は、単なる音楽会にとどまらず、人生の中の忘れがたいひと時となっている。
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