石見銀山・大森町の宿「ゆずりは」で、山里の中華に驚かされた夜

静かな山間の町、大森町。石見銀山の歴史と空気を今に残すこの地に、一軒の宿がある。
「和風旅館 × 中華料理」という、にわかには結びつかない組み合わせに少し戸惑いながらも、選んだのは「ゆずりは」という小さな宿であった。選択に迷いがなかったわけではない。しかし、それが思いがけず、今回の旅でもっとも心に残る一夜となった。

写真で見た印象では、純和風の旅館という趣である。しかし、案内を確認すると、夕食には中華料理が供されるとある。これは必ずしも決まりではなく、希望すれば中華をオーダーできるという形式のようだ。
大森町は、夜に外食できるような飲食店は見当たらず、宿での夕食はほぼ必須に思われた。宿泊料金は比較的安く、夕食は中華、朝食は和食というスタイルである。同じ大森町で他に宿泊候補を挙げるなら、群言堂が経営する「他郷阿部家」があるが、こちらは予算が全く合わない。

温泉津温泉まで足を伸ばして泊まることも、あるいは広島まで走ったことも過去にはあったが、年齢のことを思うと、できるだけ近場に泊まりたい。とはいえ、「ゆずりは」の夕食が中華という点がどうにも腑に落ちず、若干の迷いを抱えたまま宿泊を決めたのだった。

ところが、この選択が実に正解であった。

宿の和風の玄関をくぐると、すぐに受付があり、部屋の鍵を渡される。「夕食の時間までごゆっくりお過ごしください」と簡素な案内があり、あとは自由に寛げる雰囲気である。満室なのだろうかと想像しつつ、奥の部屋に進むと、お茶とペットボトルの水、さらにはポットと最中まで用意されており、もてなしの心が伝わってきた。

夕食まで1時間もなかったが、お茶と最中をいただいてほっと一息ついた頃、夕食の時間となった。レストランに行ってみると、テーブルは一卓のみが準備されており、他の宿泊客は遅い時間なのかと思ったが、結局その晩の宿泊は我々三人だけであったようだ。

和風旅館で中華料理というのは、やはりどこか不思議で腑に落ちないままだった。しかし、前菜が供され、次第に料理が進むにつれて、その気持ちはすっかり消えていた。目の前に次々と出される中華料理は、これまで見たこともないような洗練されたもので、思わず浮き足立つほどであった。


ここで一つ付け加えておくと、この宿泊は3人で1泊2食付きで60,819円であった。しかも、夕食時はフリードリンクである。我が家は皆お酒を飲まないため中国茶を選んだが、酒好きにはたまらないサービスであろう。
中でも印象的だったのが牡蠣料理である。「牡蠣料理ですが、苦手な方はいらっしゃいますか」と聞かれ、「大好物です」と答えると、供されたのはなんとカダイフ衣の牡蠣フライであった。カダイフとは、小麦粉とトウモロコシ粉を原料とする糸状の生地である。まさかこのような山里で、こんなに洒落た一品に出会うとは思いもよらなかった。

厨房では料理人が一人、配膳をする女性は受付を担当していた方で、どうやら二人で切り盛りしているようである。それにもかかわらず、料理の品数は豊富で、食べ進めるうちにお腹がいっぱいになり、思わず「あとどれくらい出てきますか」と尋ねたほどであった。

翌朝の朝食もまた驚きであった。見た目は白和えかと思われた料理は、実は小芋を蒸して潰し、菊菜と混ぜたものであった。焼いた厚揚げには、通常の大根おろしではなく、ジャガイモを細かく千切りにして出汁で和えたものがかけられていた。そのどれもが心のこもった、丁寧で創意ある一皿であり、どこよりも感動のある朝食であった。残念ながらスマートフォンを部屋に置き忘れたため、写真を残せなかったのが悔やまれる。

部屋は3人で過ごすには十分な広さがあり、快適であった。次回もこの宿に泊まろうと心に決めている。

必要なものはすべて揃っていて、過度な干渉は一切ない。料理について尋ねれば、丁寧な説明をしてくれる。今回の旅の中で、私にとって最もしっくりとくる宿であった。
「ゆずりは」は、想像以上に心に残る宿になった。またひとつ、好きな場所ができたように思う。

大森町には「群言堂」の他に「中村ブレイス株式会社」と言う義肢装具メーカーがある。
「中村ブレイス株式会社」は過去にNHKの番組で知り、その理念の高さに驚いたことがある。
大森町は若者が移住する町である。
益々、目が離せない。

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