思い出し笑い

昨夜、夕飯の後に歯磨きをしていた家人が、ふいに言い出した。
「なんだか、歯が割れたみたいだ」
こういう時は迷わない。
多少予定が詰まっていようが何だろうが、クリニックが最優先。これが我が家の掟である。

世間は三連休。
けれど、ありがたいことに行きつけの歯科医院は土曜日も診療している。

朝、九時前に電話を入れた。
案の定、「本日は予約でいっぱいでして」とのこと。
ここで引き下がるわけにはいかない。
「そこを何とか…」とお願いするのは、もはや手慣れたものだ。

するとスタッフさんから質問が来た。
「ご自身の歯ですか?」
私は素直に答えた。
「いえ、夫の歯です」

しーーーーーん。

一瞬の間。
受話器の向こうの空気が、明らかに止まった。

「あのー入れ歯か、ご自身の歯なのかとお聞きしたのですが」
「あッ、そういう事ですか。自分の歯だと思います」

ようやく噛み合った会話。
いや、噛み合っていなかったのは、どうやら私のほうだったらしい。

こちらは予約が取れるかどうかで頭がいっぱいで、質問の意図などまるで考えていなかった。
今思えば、スタッフさんもさぞ可笑しかったことだろう。
それでも無事に、午後の予約はしっかり確保。

電話を切ったあと、ひとりでじわじわと込み上げてくる。
あの一瞬の「しーーーーーん」を思い出すたびに、今でもちょっと笑ってしまうのである。

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