鳥取「とっとり花回廊」──念願の訪問と感動のガーデン体験

数年前、ある園芸雑誌で特集されていた庭園の写真を目にして以来、いつか訪れてみたいと思い続けてきた場所がある。日本最大級のフラワーパークとして知られる「とっとり花回廊」である。所在地は鳥取県西伯郡南部町。自宅からの距離は約284kmで、3月に訪れた長野・松本よりも近いにもかかわらず、なじみのない土地というだけでどこか遠く感じていた。
今回は、九州までの旅程にこの花回廊を組み込むことで、ようやく念願の訪問が実現した。
訪れたのは全日の雨が残る肌寒い朝で、空は一面の薄曇り、大山は雲に隠れていた。快晴を期待していただけにやや落胆したが、天気予報では10時頃には晴れるとのことで、わずかに希望を抱きつつ開園時刻に合わせて現地に到着した。
正面のフロントガーデンでは、色とりどりのチューリップが植え込まれ、華やかに迎えてくれた。
園内は予想以上に広大で、どこから見学を始めるべきか迷ったため、まずは全体像を把握するべく、園内を一周するフラワートレインに乗車した。2両編成の車両はほぼ貸し切り状態で、約15分かけてゆったりと園内を巡る。各所で見どころを丁寧に紹介してくれる。どのエリアも花々が咲き誇り、まさに「花の海」と呼ぶにふさわしい景観が続いていた。
中でも印象深かったのは、「花の丘」と呼ばれる斜面である。約10,000㎡という広大な花畑には、パンジーやビオラ、アイスランドポピーなどが植えられ、春を代表する花々が一堂に会していた。まさにこのガーデンを象徴する風景であった。
また、「花の谷(キューケンホフコーナー)」では、清流が流れ、大きな木々に囲まれた小径をのんびりと散策することができた。春にはチューリップが咲き誇り、どこかヨーロッパの庭園を思わせる風情が漂っていた。
さらに特筆すべきは、全長1kmにもおよぶ展望回廊である。この屋根付きの空中回廊は園内をぐるりと囲んでおり、雨天でも快適に花々を楽しめる構造となっている。最初は無理かもしれないと思ったが、ゆっくり歩けば無理なく一周できた。回廊から見下ろす庭園は、どの区画も隅々まで丁寧に管理されており、趣向を凝らした造園が連続して展開されていた。各ガーデンには異なるテーマが設けられており、歩を進めるごとに趣が変わるのも実に興味深かった。
回廊の終盤、ふと視線を上げると、雲が割れてその隙間から大山が姿を現した。温室ドームの横にそびえるその雄姿は、旅の締めくくりにふさわしい光景であり、まさに感動的な瞬間であった。鳥取を訪れたならば、この山の姿を見ずに帰るわけにはいかない──そう思っていただけに、晴れ間に現れた大山の姿はこの旅最大のご褒美とも言える出来事であった。
理想に描いていたガーデンに、ようやく出会えた喜びは大きい。とっとり花回廊は、ただ花が咲いているだけの施設ではない。自然との調和、職人の技術、そして訪れる人々へのもてなしの心が随所に感じられる、本物のフラワーパークであった。
季節を変えて、再び訪れたい。そう思わせるだけの深い満足感を得た旅であった。
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