【建物フェチの眼で語る】島根県立美術館という建築アート —— びわ湖にもこの風景を

島根県松江市の宍道湖畔に建つ島根県立美術館。
初めてこの美術館の写真を目にしたとき、大きな衝撃を受けた。ここまで自然と調和し、建築そのものがアートとして存在している場所があることに、羨望すら覚えた。

設計を手がけたのは、建築家・菊竹清訓。1999年に開館したこの美術館は、「水と調和する美術館」「夕日につつまれる美術館」をテーマに、宍道湖の湖岸に優しく寄り添うように建てられている。

私は以前から、琵琶湖の湖岸がそのポテンシャルを十分に活かしきれていないことに不満を持っていた。そのため、この美術館を知ったとき、嫉妬が胸に広がったのである。

島根県立美術館は、建築そのものが芸術作品である。
建物全体が宍道湖の「渚」をモチーフに設計され、緩やかなカーブを描きながら湖に向かって広がっている。
屋根にはチタン素材が用いられており、日光を柔らかく反射すると同時に、建物の高さを抑えることで、背後に広がる山並みや湖の景観を遮らない配慮がなされている。
ロビーは高い天井と大きなガラス面を持ち、室内にいながら宍道湖の穏やかな水面を存分に楽しむことができる。
しかも、ここは「日本の夕日百選」に選ばれた宍道湖の夕日を鑑賞できるよう、3月から9月の閉館時間が日没の30分後に設定されているという。
これほどまでに「景観をもてなす」建築があろうか。

美術館の建物に目を奪われながらも、湖畔でふと目に入るのが、十二羽のブロンズ像《宍道湖うさぎ》である。
これは彫刻家・籔内佐斗司による作品で、2004年に設置された。出雲神話の「因幡の白兎」にちなんでおり、地域文化との結びつきが深い。
面白いことに、1羽だけ他と向きが違うウサギがいるという。

それに気づいた者が撫でると願いが叶うという言い伝えがあり、縁結びスポットとしても人気を集めているらしい。
私はその違いに気づけず、後になって少しばかり悔やむこととなった。
夕暮れどきには、このウサギたちと宍道湖の夕日が美しく調和し、絶好の写真スポットになるという。
残念ながら私はその時間まで滞在できなかったため、夕陽に心を残すこととなった。

「今、美術館で何が展示されているのか」と問われても、正直なところ関心は薄かった。
なぜなら、私は建物フェチである。私にとって美術館とは、展示を見る場所である前に、建築としての美術館そのものを見に行く場所なのだ。
昼食には、美術館併設のレストランでワンプレートランチを選んだ。
「宍道湖を眺めながら優雅にフルコースを……」というほどではなかったが、静かな湖を眺めながらの食事は十分に贅沢な時間だった。


宍道湖に両手を広げるように佇むこの美術館を目の当たりにして、思った。
もし、琵琶湖にもこのような美術館、図書館、あるいはプールといった公共建築が建てられたなら——。
琵琶湖の西岸に位置する大津市は、京都・大阪への通勤圏内でもあり、自然環境にも恵まれている。
その地に、風景と一体化した芸術的な建築を備えた文化施設があれば、若い世代の移住が進み、まちに活気が戻る可能性は大いにあると感じる。

琵琶湖の景観を生かした建築が、地域の未来を変えるかもしれない。
島根県立美術館の建築美を目の当たりにした今、私はその可能性を強く信じている。

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