旅情に濁りを差した“美味少量懐石”-日田の老舗宿にて

実を言えば、私は土曜日の宿泊を極力避けるようにしている。
ご存じのように、土曜日の宿泊費は跳ね上がる。およそ1.5倍、時に2倍、3倍とする宿もある。
それだけの費用を払って、混み合う中をわざわざ泊まる理由が見つからないのだ。

しかし今回は例外であった。姉の五年祭が日曜日と定められていた。必然、前泊は土曜日となる。
福岡から無理なく移動ができ、かつ別府に近い場所として選んだのは日田市であった。

宿の横を流れる三隅川。その川面に歴史を映すように佇む老舗旅館。昭和天皇もお泊まりになったと聞く。将棋の名人戦も行われたという格式高い宿である。
そして何より、土曜日にもかかわらず平日と変わらぬ価格設定。これは珍しいことであった。

料理の指定もできたため「美味少量懐石」をお願いした。年齢を重ねた身には、この選択がちょっと嬉しい。
部屋は最上階の広々とした和室、ベッドルームと三隅川を望むソファースペース付き。申し分のない滞在環境である。

ただ一つだけ気がかりだったのは、その価格の安さであった。「美味少量」とはいかほどの量であろうか。
まさか空腹で部屋に戻ることになっては…との不安が心をよぎった。

夕食会場に通され、指定された席に着くと、テーブルにはコンロ風の器具がいくつも並んでいる。テーブルには隙間もない。
周囲では、若い男性グループが酔いに任せて大声で騒いでいる。雰囲気を楽しむどころではない。

料理の詳細な記憶は曖昧だが、ひときわ印象的だったのは「ウナギのしゃぶしゃぶ」である。

横には小さな牛肉が網に載せられ、香ばしく焼かれていた。視覚的には豪華であるが、私は徐々に胸が満ちていくのを感じた。
そろそろ白飯で締めたいと思っていた頃、運ばれてきたのは「ひつまぶし」。
一瞬、ここは名古屋だったかと錯覚する。

「日田って、ウナギが名物だっただろうか?」
そう疑問に思った私は、翌日大分市内で会った旧友(かつて日田の宿で支配人をしていた)に尋ねた。
返ってきたのは「今なら鮎でしょう」という答えだった。

そう、鮎。確かに鵜飼船や遊覧船が洗われ、出番を待つ様子を見かけた。
だが鮎の解禁は5月20日。私の訪問はそれに先立つものであった。

結果として、「美味少量懐石」はウナギと小さなステーキ肉を主体とする構成であったが、私の考える「美味少量」とは、どうやら食い違っていたようだ。
「少量」という言葉に、繊細さや余白を期待していた私は、その“過剰な気遣い”にやや辟易し、心に届かなかった「おもてなし」に残念さを覚えた。

歴史と風格ある宿であっただけに、その分、心残りも大きかった。
次に訪れる時があるならば、ぜひ鮎の季節に。また別のかたちでの“もてなし”に触れられることを願う。

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