高橋まゆみ人形館—心に触れる人形たちとの出逢い
6年ほど前、私は長野県の野尻湖を訪れた折に、初めて「高橋まゆみ人形館」の存在を知った。それまで人形にはさして興味を抱いたことはなかったが、この時初めて人形の豊かな表情に魅せられて何時かはこの人形館を訪れたいという思いを抱くようになった。しかし、長野県飯山市は私の家から約440kmも離れており、その機会をなかなか得られずにいたので、今回はわざわざ機会を作って、漸く人形たちに会いに行った。
人形の制作過程は、まず粘土で顔を形作り、その後ワイヤーで体を構築し、布をまとわせ、最後に絵具で表情を仕上げる。私は人形の表情が忘れられなかった。
農民人形というのだろうか一日中畑仕事をしている老人の、満足しきった顔だ。
その表情は「慈しむ」と書いてあるかのような優しさに充ちていた。
相田みつをの詩をバックに展示されるとジンと来るものがある。
しかし私的には相田みつをの詩は要らない。
その方が自分の思いだけに重ねられる。詩があると感情は詩の世界に引っ張られてしまう。
その人の胸に去来するものを引き出す力のある人形たちである。
訪問の記念として、「高橋まゆみ人形出逢い旅」という書籍を購入した。
この本には、高橋まゆみがどのようにして人形と出会い、創作活動に至るまでの葛藤や、出会った人々との交流が丁寧に描かれている。特に、人形作家としての道を切り拓いていく過程には、大いに共感を覚えた。彼女の歩みには、自分を信じる力と、確かな行動力があると感じた。
人形たちが描き出す風景は、どこまでも長閑であり、平凡な日常が静かに営まれている。しかし、その背後には、強い信念を持ち、長い道のりを歩み続ける人々の力強い存在が感じられる。高橋まゆみの人形たちは、その力強さを静かに包み込みながら描き出した「日常のひとこま」である。
私は、再びこの人形たちに出会うことが出来て心が充たされた。
この特別な場所を訪れて本当に良かった。
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