「【名残の越前ガニ】50代の思い出と今、至福の味を求めて」

越前ガニの旬は毎年11月6日から翌年3月20日までとされている。
今年も折につけ何度か堪能している蟹なのに、3月に入るとまた11月まで待たねばならないのかと思うと寂しさが募る。
関西に住んでいるメリットの一つは「越前ガニが身近にある」ことだ。
50代の頃、家人と「蟹を食べに行こう」という話が持ち上がった。しかし、当時は今のようにインターネットが普及しておらず、情報を得るのが難しかった。そんな中、うっすらと思い出したのは、美食家としても知られる作家・開高健が越前にお気に入りの宿があると言っていたこと。その宿が「こばせ」だった。
電話でお昼の予約ができたので、意気揚々と出かけたものの、果たして自分たちの身の丈に合うのかどうかも分からず、恐る恐る玄関をくぐった。建物は古びた趣で、本当にここが開高健のお気に入りの宿だったのかと不思議に思った。
そのとき「開高丼」はオーダーしていない。蟹を食べるという情報しか持っていなかったので、おそらく「蟹定食」を注文したのだと思う。しかし、玄関の雰囲気に圧倒されたのか料理を口にしても「美味しい。」という気持ちにはならなかった。茹で蟹が提供された後に、アジの料理と蜜柑が提供された。蟹を食べに来てアジを出された時の違和感は大きかった。その組み合わせにがっかりしてしまい、食べる気になれず残してしまった。
その印象が強すぎて、「こばせ」へ再訪することはなかった。しかし、越前海岸に蟹を食べに行くたびに「こばせ」の前を通る。最近ではネットで「開高丼」の人気が高いと目にするが、それでも再び訪れようという気持ちにはなれない。建物は数十年前と変わらぬ佇まいのままだ。
その後、あちらこちらと蟹の宿を巡ったものの、今では一人で蟹一杯を食べるのは難しくなってきた。それに、蟹の価格も近年は高騰しすぎている。もうアジ料理は要らない。ただ、蟹だけをシンプルに味わえる場所があればいい。
そんなときに出会ったのが橋立港の「舟重」だった。
今年も名残の蟹を味わいたいと思い、カレンダーを眺めながら思案している。
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