帯広の朝に出会う静寂の美──真鍋庭園を歩く

帯広の朝一番は、ホテルからほど近い真鍋庭園を訪れた。
開園時間は午前8時30分。帯広市内の庭園では最も早い開園である。
開園前に駐車場へ向かうと、大型バスが一台到着した。
団体客も朝早くから行動するものだと感心したが、入場してしばらくすると、彼らの姿はどこかに消えていた。
2時間ほどの滞在中、訪問者は我々3人のみ。まるで貸し切りのような静寂の中、庭園は私たちだけの世界となった。

真鍋庭園は、日本初のコニファー(針葉樹)ガーデンである。
北ヨーロッパやカナダなどから輸入された数百種もの樹木が整然と配置され、その多くが年月を重ねて深い森を形づくっている。
中には、北海道開拓以前から根を張る古木もあるという。
見上げれば空を覆うような針葉樹の枝葉が風に揺れ、その香りは澄み切っている。
まるで遠い北の国に迷い込んだような気持ちになる。


秋色に染まり始めたミナヅキの花が、深い緑の中で柔らかく光を放っていた。
その薄ピンクの色合いが、コニファーの森に豊かな表情を添えている。

庭園の奥へと進むと、一本のバッコヤナギがそびえる広場に出る。
この場所は回遊式庭園の出口近くに位置しているが、コニファーの森から抜けてここへ来ると、空気が一変する。
ヤナギの周囲には枝を揺らす柔らかな風が流れ、静けさが漂う。
まるで時間そのものがゆっくりと流れているかのようであった。
何度訪れても、この場所に立つとホッとする感覚が蘇る。

ふと見上げると、枝に掛けられた巣箱からエゾリスが顔を出した。
小さな体で巣箱を出入りし、木を駆け上る姿が愛らしい。

その仕草を追っているうちに、時間の感覚が消えていく。
野生の生きものがこの庭で自由に暮らしている光景は、庭園が自然と調和している証である。
真鍋庭園は、単なる観光地ではない。
ここには人の手による美と、自然が自ら作り上げた秩序が共存している。
歩くたびに木々の香りが変わり、風の音が異なる。
朝の光が差し込む時間帯はとりわけ美しく、静寂の中に生命の息づかいを感じることができる。

帯広を訪れるなら、ぜひ朝一番の真鍋庭園を歩いてほしい。
木々の間を抜ける風の音、柔らかな光、そしてリスたちの気配――。
そこには、北海道の自然が凝縮された「もうひとつの森」が広がっている。
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