十勝岳、紅葉の気配の中で

青池を後にして、白銀温泉へと車を走らせた。森の木々はまだ夏の名残を留め、日差しの加減によってはようやく色づき始めた程度である。もしかすると、今年の紅葉には少し早かったのかもしれない。白銀温泉を過ぎたあたりで、そんな思いが頭をよぎった。どこか全体がぼやけて見える。(2025年10月7日現在)
前回訪れたときの鮮烈な印象が強すぎたのだろうか。初めて見る景色には、心を震わせる力があるものだ。

駐車場に着くと、観光客の姿はまばらだった。十勝岳をほとんど独り占めにできる贅沢な時間。風の音しか聞こえなかった。

展望台まで、火山の噴火でできたガレ場の斜面を、ゆっくりと登った。足元はデコボコして歩きにくい。それでも、不思議と力が湧いてきた。十勝岳の紅葉を見たい、その一心で、いつもよりも軽やかに足が動いた。
やがて視界が開け、そこに十勝岳の紅葉が現れた。
赤や橙、そしてまだ緑を残した木々が、斜面に淡く滲むように広がっている。派手さはない。けれど、まるで山そのものが深呼吸をしているかのように、確かに色づいていた。

風が強くなり、噴煙が真横に流れていく。空は高く澄み、ブラウス一枚では少し肌寒い。けれど、この瞬間を逃したくなかった。次にここに来られるのはいつになるだろう。そう思うと、足を止めて、ただただ山を見つめた。
遠くに富良野の街が小さく見える。けれど、そこはまだ紅葉の気配が浅い。
秋は、ゆっくりと北から南へと降りてくるのだ。

十勝岳の紅葉は、まだ完成には至っていなかった。けれど、その「途中」に出会えたことが、何よりうれしかった。自然は人の都合などに合わせてはくれない。だからこそ、いまこの瞬間に立ち会えたことに心から満足した。
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