タコとナスと朴葉味噌

六月の最終日、朝からうだるような暑さであった。気温は三十六度を超え、風情もへったくれもない。もはや人間としてのたしなみすら失いかけるほどの猛暑である。そんな中、京都ではこの日「水無月」という三角形の和菓子を食べる慣習があるらしい。氷を模した白いういろうの上に、小豆がちょこんと乗っていて、邪気払いの意味があるそうだ。
京都市民の姪は、こうした季節の食べ物にやたらとうるさい。カレンダーに書かれている祝日よりも、二十四節気と行事食を重んじる人である。
「水無月、食べないの?季節の締めくくりやで」
と言うが、先日「仙太郎」の水無月をいただいており、それで私はもう満足していた。

とところが、今年は本当に暑すぎた。風情どころか、扇風機すら弱音を吐いている。
「朝いちで山科勸修寺の農園で買ってきた」と言う茄子を頂いた。
なんとも瑞々しく、皮に艶がある。確かにこれは今日中に食べねばなるまい、と姪とレシピ会議が始まった

そんな中、家人が突然「火遊び」を始める気配を見せた。暑くなると炭火を熾したくなるという、困った癖である。
「炭火があるなら、焼きナスで決まりやな」
と姪が言うので、即決。さらに朴葉のストックがあったことを思い出し、朴葉味噌も急遽追加。
焼きナス、朴葉味噌、そして最後は焼きおにぎり。炎天下の夕暮れ、冷房を利かせた台所で妙に豪勢な締めくくりとなった。六月、お疲れさまであった。


さて、明けて七月一日。今度は「半夏生(はんげしょう)」という日であるらしい。太陽が天球上の黄経100度を通過する節気で、主に西日本ではこの日にタコを食べる風習があるそうだ。
「えっ、タコ?なんで?」
と驚いていると、姪が「スーパーの鮮魚コーナー見てみ」と言う。半信半疑で覗いてみると、なんとゆでだこが所狭しと並んでいる。小さな一角ではなく、ほぼ一コーナー丸ごとタコである。これは驚いた。

早速、タコの酢の物を作った。作ってみれば、まあ美味しい。しかし、私は去年も半夏生という日があったことすら知らなかった。花の「半夏生」(ドクダミのような葉が白くなる植物)は見たことがあったが、まさかタコを食べる日でもあるとは。

それにしても、姪との暮らしは面白い。
知らなかったことを知っていくというのは、少し面倒で、でもちょっとだけ楽しい。タコとナスと朴葉味噌に振り回された二日間だったが、それも悪くない。来年は、私から「今日は半夏生やで」と言ってみたいものである。

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