階段という小さな試練

我が家の階段の蹴上(けあげ)が気になり始めたのは、つい最近のことである。
この家は新築からおよそ半世紀が経とうとしており、階段も長年にわたって日々の生活を支えてきた存在である。これまで特に不便を感じたことはなかった。だが、膝を痛め、久しぶりに通常の歩き方で階段を上ろうとしたとき、ふと「もう少し蹴上が低ければ、上がれるだろうに」と思ったのである。
一歩ずつ足を揃えて慎重に上がる分には特に問題はない。しかし、悪い足を先に出して上がろうとすると、それなりの筋力が求められる。
身体にハンディを抱えて初めて気づくことがある。日々の暮らしの中で何気なく使っていたものが、途端に負担としてのしかかってくるのである。健常者と障がい者、高齢者との間には、確かな違いが存在するのだと痛感させられた。
階段の寸法について改めて調べてみた。
一般的に住宅の階段における一段の高さ、すなわち「蹴上」は18cm〜20cm程度が使いやすいとされている。建築基準法では23cm以下であれば適法であるが、実際の暮らしにおいて快適と感じられるのは、やはり18〜20cmの範囲であるようだ。踏面(奥行き)についても20〜22cm程度が適切とされている。
なお、我が家の階段の蹴上は21cmである。建築基準法の基準には適合している。
しかしながら、令和2年に改正された「高齢者等の居住の安定確保に関する法律」、いわゆる改正バリアフリー法によれば、高齢者向けの住宅施設においては以下のような基準が望ましいとされている。
階段の幅:140cm以上
蹴上:16cm以下
踏面:30cm以上
もちろん、これらの基準は高齢者施設における設計指針であり、一般住宅にそのまま求められるものではない。しかし、年齢とともに身体機能が衰える中にあっては、自宅においてもこうした配慮が必要であったと思った時は後の祭りである。
このように考えると、我が家の階段は、今の私にとってはやや厳しい存在であると言わざるを得ない。
かつては何の苦もなく上り下りしていたその段差が、今や慎重に足を運ばなければならない「障壁」と化しているのである。
平屋住宅やマンションが「老後にやさしい住まい」とされる理由が、今になってようやく実感として理解できるようになった。
日常に潜む小さな試練。
その一つが、階段なのである。
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