肩の荷を下ろして、風に任せて生きる

数年前に不整脈が発覚してから、二か月に一度の定期健診を続けている。現在では心電図も正常で、血圧もまあまあであり、特に大きな心配があるわけではないが、最近の医療システムでは「かかりつけ医」を持つことが推奨されている。いざという時に「かかりつけ医」の居ない患者は路頭に迷う事にもなりかねない事情で「かかりつけ医」としてお付き合いをしている。

しかし、そんな健診で受け取る血液検査の結果には、少しばかりの悩みがついて回る。大抵は正常範囲内であるが、数値が少し低かったり高かったりすると、青や赤のマーカーで示される。主治医は「気にしなくて良い範囲です」と言うが、それが気になるのが私の性格である。正常値があるなら、その範囲内で収まってほしいと、どうしても思ってしまうのだ。

そこで、あれこれと試行錯誤してみたものの、二か月後の結果はまるでモグラたたきのように、また違う項目が範囲を外れてしまう。再び躍起になって、モグラたたきのような調整を繰り返す日々である。ところが、この頃、そんなモグラたたきに疲れてしまった。「もう、いいんじゃないか」と思えるようになったのである。なぜなら、原因の一つに「加齢」というものがあることに気がついたからだ。
この年齢で多少の範囲外の数値が出ても、それは自然なことであると今更ながら理解した。主治医が「気にしないで、大丈夫」と言うのは、全体的な状況を「相対的」に見ての判断である。一方で、私は「個人的」にしか見られず、基準を持たずに不安を抱えていたのだ。

先日、血液検査の結果を見ながら、主治医に尋ねてみた。「私の年齢になったら、このくらいの数値でもよろしいということですね?」と。すると、主治医はホッとされたように「そうです、そうです。上等すぎるくらいです」と言われた。おそらく私はそれまで浮かない顔をしていたのだろう。

どうやら私は、モグラを見つけると叩かないと気がすまないらしい。今になってそんなことを友人たちに話せば、呆れてものが言えなくなるかもしれない。しかし、なんだか私はホッとした気持ちである。もう、おばあさんになって肩の荷を下ろしてもいい年齢なのだと、自分を許せたのである。これから、思いがけない病気になるかもしれないし、死んでしまうかもしれない。先のことは分からないが、これからはもっと気楽に、風に任せて生きていこうと思う。

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