第45回しが落語──灼熱の午後に冷や汗の一席

猛暑の午後、浜大津スカイプラザ7階ホールにて「第45回しが落語」が開演された。かつては夜間開催だったこの会も、何度かの迷走(失礼、試行錯誤)を経て午後二時開演という形に落ち着いた模様である。
開場時間を数分過ぎて到着すると、受付では本日出演の四人の落語家が直々にチケットを手売りしていた。なかなかにアットホームな雰囲気であった。「今日はお客さん、来てくれるやろか…」という背中に不安を滲ませながら、笑顔で迎えてくれるのだから応援したくもなる。
しかし、いざ会場に入れば、そこは広々とした空間に点在する観客は28名。空調音だけが元気である。
さて、トップバッターは「歌之助」さん。演題は古典の「時うどん」。枕の小話では、海外で初めて高座に上がった時という思い出話を語り出し、しばらくは異文化交流トークが続く。そろそろ「うどん」が出てくるかと思いきや、本編が始まった頃にはこちらの興味が「冷やし中華始めました」の張り紙くらいに薄れていた。しかも話は短め。知っている噺だったこともあり、やや拍子抜けである。
続く二番手は、今年めでたく襲名を果たした「惣兵衛」さん。演題は「あわての使者」。しかし、こちらも演目よりも襲名記念グッズの話が強烈で、印象が完全に逆転した。後述するが、あの缶バッチは記憶に残る。落語自体は途中でオチが読めてしまい、「あ、そうなるのね」という軽い脱力感。30分枠を考えれば、もう少し欲張ってくれてもよかったと思う。
三番手には、「紅雀」さんが登場。演題は「替わり目」。これは、今風に言えば「酔っ払い亭主と尽くす昭和妻の夫婦漫才」だろうか。毎晩飲んだくれて帰宅する夫に、文句を言いながらも世話を焼く妻。大事件は何も起きない。ただ、漫才のような掛け合いの中に、長年連れ添った夫婦ならの愛情がじわりとにじみ出ていた。紅雀さんは、細身の体をフル活用し、場面転換も見事。あまり動かない噺なのに、動きが見える。この一席だけは、「来てよかった」と言えるものであった。
そしてトリは「二乗」さんの「質屋蔵」。これは正直、長かった。周囲では舟を漕ぐ音がそこここに聞こえ始める。
名のある古典であるが、どうにもテンポが緩やかすぎて、こちらの集中力が質屋に質入れされたまま戻ってこなかった。惜しい。
ちなみにこの日は、別会場でもう一席設けられていたようで、そちらとの客の分散もあったかもしれない。入場者数は28名とのこと。どんなに面白い高座でも、観客が少ないと熱気が生まれない。これでは噺家も辛かろう。とはいえ、彼らはいつか「満員御礼」の看板を背負うことになる、芽を持つ人たちである。今は小さな舞台でも、真打ちの未来を信じたい。
最後に、惣兵衛さんの「缶バッチ騒動」に触れねばなるまい。襲名にあたって「どん兵衛」をもじった缶バッチを作成したところ、見た目が本家にそっくりで、会社から販売拒否を食らったらしい。結果、本人が手売りする羽目になり、会場出入口の机に缶バッチが並んでいた「座布団が揚げ、扇子が箸」というデザインはなかなかの完成度で、むしろよく訴えられなかったものだと感心する。応援の気持ちで一つ購入したが、使い方が思いつかず、現在も机の上で「どうしよう…」という空気を放ち続けている。これぞ、落語界の「実物落ち」である。

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そんなわけで、笑いあり、脱力あり、少し居眠りありの午後。寄席というのは、噺の内容はもちろんだが、「会場の空気ごと楽しむ場」であると改めて感じた一日であった。
次回の「しが落語」、もう少し客が増えることを祈りつつ、またあの受付でチケットを買いたいと思う。
次回公演


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