浜大津の夜、地下に響くタンゴの調べ 〜旧大津市公会堂にて、アストロリコ・コンサート〜

浜大津駅からほど近い、旧大津市公会堂の地下レストランにて、アストロリコによるタンゴ・コンサートが開催された。観客はおよそ40人。仕事帰りの人々にも気軽に本格的な音楽を楽しんでほしいという思いから企画された、小規模ながらも密度の高い公演であった。

開演と同時に流れ出したのは、ピアソラの代表作「リベルタンゴ」。静けさの中にバンドネオンの第一音が響いた瞬間、心をぐっと掴まれた。まるで音そのものが空気を震わせて、感情を直接撫でてくるような感覚。ピアノの柔らかなアルペジオ、バイオリンの哀愁、コントラバスの深いリズムが一体となって、まさに「生きている音楽」がそこにあった。
クラシック音楽の素養を持つメンバーが多く、タンゴに馴染みがない人でも楽しめる高い芸術性がある。
少しマニアックな楽曲も混ぜながら、全体にドラマのような構成となっていた。MCの麻場さんが、巧みな話術でプログラムを進行していった。

前半は静けさと緊張感を漂わせ、後半に向けて徐々に熱を帯びていく…音楽の流れだけで、観客の心は自然と引き込まれていった。
続くプログラムでは、日本人に馴染み深い「赤い靴のタンゴ」や「ジェラシー」が、アルゼンチン・タンゴに編曲されて披露された。メロディーは懐かしさを湛えつつも、タンゴ特有のリズムと情熱を帯びて、まったく新たな表情を見せていた。

地下の会場は、音の響きが良く、アコースティック編成の美しさが際立った。バンドネオン、ピアノ、ヴァイオリン、コントラバスが織りなす重厚かつ繊細なアンサンブルは、聴く者の心の奥にまで染み渡るようであった。
客層は比較的年齢層が高く、タンゴというジャンルに親しんだ大人たちが中心であった。特に目立ったのは男性ファンの存在である。静かに耳を傾けながらも、楽曲が進むごとに熱を帯びていく会場の空気が、聴衆の深い愛着と理解を物語っていた。

日常の延長にある音楽体験として、これほどまでに上質な時間を提供できる公演はそう多くない。アストロリコの演奏は、単なる懐古や娯楽にとどまらず、タンゴという文化の「今」をしっかりと提示するものであった。

外の喧騒から一歩離れた地下空間にて、音楽と心が深く交差する──そんな特別な夜であった。
次回開催にも、ぜひ足を運びたいと思っている。

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