NHKドラマ再放送 浅田次郎『母の待つ里』

浅田次郎の本は、二度目に読んでも初めてのように飽きることがない。大抵、心の琴線を掴まれてしまうからである。

「母の待つ里」がNHK土曜の夜に再放送されている。昨年の秋に初めて放送され、その直後に原作本を買った。ドラマに感動し、さらに本を読み耽った。そして今回の再放送も、熱心に視聴している次第である。

ロケ地は岩手県遠野市。エピローグで咲き誇る桜の映像が流れ、そのままドラマの世界へと誘われる。浅田次郎の仕掛けは、いつも虚実ないまぜの世界であり、あり得ないはずの物語に観る者を引き込んでしまう。ネタを明かせば、この故郷はカード会社から五十万円で買った架空の里にすぎない。しかし、その架空の地に降り立てば、そこは紛れもない自分の故郷である。すれ違う人々は子供の頃の名前で呼びかけてくれる。曲屋に住む母も又まぎれもなく自分の母である。母らしい優しさでたっぷりと甘やかしてくれる。母の懐に抱かれ、安心感に満たされる一夜を過ごすのである。

ここがカードで買った故郷であると分かっていながらも、錯覚のようにそこを本物の古里だと信じてしまう。都会で疲れた人は、母に甘え、故郷に癒やされ、再び都会へと帰っていく。しかし心の奥では、母を恋しく思わずにはいられないのである。

人はみな、母を恋しく思うものである。どれほど偉くなっても、母と故郷は特別な存在である。その姿を思い出すだけで、生きる力が湧いてくるものだ。本の世界だと知っていても、ドラマの世界だと分かっていても、浅田次郎の手品にかけられたように再放送を見ては胸が詰まり、本を読み返しては鼻の奥がツンとする。

もう少し騙されていたくなるのだ。それほどまでに、母と故郷の記憶は温かい。

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