うつわを巡る旅 赤木明登・赤木智子著

久しぶりに納得する案内本に出合った。
こういう類の本の装丁は直ぐに手が出るように創られている。
ところが読んで失望するのがほとんどだった。
この本はその思いをいい意味で裏切った。
先日金沢の「生活道具展」に出掛けた時にチョットお二人に興味を持ったのがきっかけだ。

実は赤木明登さんには震災奮闘記を読む前はいささか偏見を持っていた。
修行6年で独立し、あれよあれよと高名作家になった。
ご本人は職人と仰るが文化人、エッセイスト、塗師と活躍されている。
「家庭画報」の編集者からの転身ならばマスコミに、沢山の知己を得て時流に乗った人と思い込んでいた。
物珍しさに天廣皿8寸を20年ほど前に買ってはいるけれど、出番は少なかった。

この本はご夫婦の本音で語られている。
流石にエッセイストと感心させられる文章は流れるように先へと読み進ませる。
赤木さんが輪島塗の下地に和紙を張る事を思いついたのは、子供の頃に倉敷の「民芸 とをる」で観た李朝時代の文箱の表面に手すき和紙を貼りこんだテクスチャが忘れられなかったからと、この本で明かされている。
その辺を読んだ時にコトンと胸に落ちるものがあった。
天廣皿を私が手にした時に感じたものだ。

器は普段に使うもの。
そして、「それを使う人に喜びを感じさせるものである。」と。
値打ちが分からない時は、閃いたものを買う、お金が無くても買う。
すると、何時も使うものと、出番のないものに分かれて来る。
そうして学んでいく、生活していく、生活が楽しくなる、それを感じさせてくれるものの先に工芸品がある。
かつて輪島塗は飾るものと言いたくなるほど高価だった。
30代になったばかりの頃に金沢で暮した思い出に輪島塗の盆を買った。
その頃の私には高価で大事にし過ぎて盆にも出来ず、和紙に包まれたまま箱入り娘になっている。
最近それを出すと図案は古く、漆は曇り何の魅力もない。
漆は強い、日常にガシガシ使うべしと知ってからは気楽に使っているし、作家さんは何時でも元通りに修復してくれる。

この本は「ほしいものはどこにある」と生活工藝を全国に訪ね歩く本である。
旅をすれば気持ちのいい宿や美味しい物にも巡り合う。
そこで出会う人との縁も繋がり、好みの合う書店に出会う。
器を巡る旅は刺激的でもある。

この本を読むと「行ったのにー見落としてる」
あー残念だ
直ぐに旅立ちたくなった。


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