火を使わないお灸と、名もなき桜並木の春

姪は大変な冷え性で、肩こりにも悩まされているらしい。ある日ふと、私がお借りしていた『365日の暮らしメモ』という本の1ページに目が止まった。「お灸でじんわり」と題されたそのページには、滋賀県長浜市にある「千年灸」の工場と、隣接する道の駅で販売されているという情報が載っていた。

ちょうど姪からも「火を使わないお灸があるらしいから、それを試してみたいの」との相談が。私も、気になる膝の冷えにお灸が効くかもしれないと思い始めていたところだった。ならば一度行ってみようかと、話はあれよあれよとまとまり、「じゃあ、海津大崎の桜を見たついでに長浜まで足を延ばそう」と春の小さな旅に出ることになった。

琵琶湖を右手に、海津大崎を抜けた先はもう長浜。ドライブ日和の空の下、琵琶湖周辺の山には白いタムシバとピンクの山桜がふわりふわりと咲いている。時折、濃いピンクのツツジがアクセントのように彩りを添え、薄緑の新芽がのびはじめた木々が山の中を明るく照らしていた。

春の山は笑っている——そんな表現がぴったりの風景。桜並木の道が続き、まるで「名所は海津大崎だけじゃないんだぞ」と言っているかのように、名前もない桜並木があちらこちらに現れる。数人が桜の下でお弁当を広げていて、それはそれはのどかで、空気もふわりと温かく、思わず身体が浮き上がりそうな春の午後だった。

ようやく目当ての道の駅に着いた頃には、歯科の予約時間が迫り、引き返す時間が迫っていて、ゆっくり見る余裕はなかったけれど、売り場には「千年灸」の商品がずらり。種類が思いの外多くて、できれば説明を聞きたかったけれど、道の駅ではそれは望めない。姪と二人、火を使わないと書かれたものだけを選んで、「肩用」と「腰用」のお灸を購入。

帰宅後、いそいそと封を切って説明書を読み始め「さて、効くといいけどねぇ」と思っていたところに、近くで見ていた娘がぽつり。

「それ、近くのドラッグストアにも売ってるよ」

……えっ?

なんだか、有難みが一気に薄れてしまった気もしたけれど、いやいや、目的は“有難み”ではなく“効果”である。山笑う季節の小さな遠回りは、きっと身体にも心にも効いてくれる——そんな気がした。

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