貴船で味わう、理想の蟹づくし

金沢の「貴船」から今月の案内をいただいた。内容は「ズワイガニのコース」であるという。先日セイコ蟹を堪能したばかりで、これでズワイガニまで頂ければ今年の蟹はもう大団円である。気になる値段は、さすがに貴船、相場の半分ほど。とはいえ、ひょっとすると一皿二皿に蟹の炊き込みご飯が付く程度かもしれないと踏んで、友人たちには期待をぐっと下げて伝えておいた。

そういえば長く通っていながら、貴船で蟹づくしのコースを頂いた記憶がない。金沢で本気の蟹を食べようとすれば、こちらもそれなりの覚悟がいる。簡単に足を踏み入れられる世界ではない。

夜のコースは18時開始。寒くはないが、時間が余る。こういう時に重宝するのが石川県立図書館である。暖房も椅子も申し分なく、いつも静かだ。かつて小立野で暮らしていた身としては、どこか懐かしい空気が漂っている。

18時ともなれば、夜の帳がすっと落ちて犀川の灯が水面に揺れる。昼とは違う景色に胸がそわそわして、少し急ぎ足で貴船の白い暖簾をくぐった。「わざわざ夜に遠くから」と、温かく迎えていただき、すぐに食事が始まった。

一品目は石の器で煮られた雑炊。蟹身とカボスが添えられ、昼食を控えた胃袋に期待が広がる。「雑炊?」と思いつつ口に運ぶと、ふわりと蟹の香りが立ちのぼった。美味しさに驚き、人匙ずつ噛みしめながら、下に隠れた素材の名前を確認した。絶対に忘れるはずもない感動の味なのに、コースが終わった帰り道、誰も一皿目の事を覚えてなかった。

二皿目は、セイコ蟹の甲羅に山盛りの味噌。小さな甲羅に一体何杯分の味噌を集めたのかと思うほどの贅沢さで、美味しいところだけすっと頂ける幸福に浸った。このあたりで「これは本当の蟹コースではないか」と予感し始めた。

続く椀物は、揚げた海老芋とほうれん草、白子。下に引かれた出汁はズワイガニを砕いて取ったものを白味噌仕立てにしているという。この吸い地のなんとも言えないコク、白子のとろりとした旨さ。ふわふわと温まる椀に、早くも今日の幸せは頂点に達した。

これまで何度か蟹のフルコースを店を替えて頂いたことがある。だが、いつもどこかしら物足りなかった。蟹を食べに来たはずが、手の込んだ料理が先に続き、刺身だ椀物だとお腹を膨らませてしまう。最後に立派な蟹を大盆にのせて見せられても、食べきれない。あれは少し寂しい時間だった。

その点、貴船は演出よりも実を取る。どの料理にも必ず蟹を忍ばせ、少量ずつさまざまな蟹の表情を味わわせてくれる。だから最後まで楽しく箸が進む。今回の蟹コースはまさに理想形であった。

そこへ、
・氷見のぶりとズワイ蟹のお造り


・ズワイガニの味噌と茹で脚


・能登フグの唐揚げ


・このわたの蕪蒸し


・セイコ蟹の炊き込みご飯


・デザート

と続く。皿の中心には常に蟹がいる。まさに蟹だけに光を当てた構成だった。

こういう蟹の食べ方こそ、自分には一番合っている。客が何を望むかを知り尽くした、貴船ならではのコースである。今回、改めてその実力を見直した。満足度は言うまでもない。

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