秋景色をいただく ー 山代温泉「茶寮中尾」のお弁当

山代温泉の「茶寮中尾」へ伺うのは、真夏の八月以来であるから、およそ三か月ぶりとなる。月が替われば生花も掛物も入れ替わるゆえ、その変化を眺めるのも大きな愉しみである。


しかし正直に申せば、毎月変わる“あのお弁当”こそが最大の楽しみである。

この日ご一緒したYさんと中尾の大将は同郷であるという。滋賀の話になると、店内の空気がふっと柔らかくなり、「家の周りが変わっていてね」「あの辺りは今どうなっているんだろう」など、地元でしか聞かれぬ素朴な世間話が続く。その様子がなんとも微笑ましい。
とはいえ、この距離をどの交通手段で来られるのかと尋ねられたときには驚いた。私にとっては160キロなど、隣町へ行くような感覚であるが、一般には100キロの移動でも大ごとのようである。

さて、今日のお弁当である。運ばれてきたのは、まさに秋そのものの風景であった。

木製の大ぶりな皿の上には、どんぐりや山帰来、くるみの殻が敷かれ、その同系色に溶け込むように一口サイズのキッシュが置かれていた。木の実の合間からつまみ上げて食べるという野趣ある趣向が愉しい。一口目に選ばれたキッシュはしっとりとしていて、口どけもよく、食欲を呼び覚ます。

続いてはさつまいものスープ。しっかりと芋の味が立ち、しかし泡立ててあるため口当たりは軽い。見た目と味わいのギャップが面白い一品である。器も木製で、茶托の代わりは小さなリース敷かれていた。

そして、いよいよお弁当が登場する。
蓋を開ければ、かいしきの上は秋の彩そのもので、器までもが柿の実である。甘く煮含められたさつまいも、紅白の海老、そして鮮やかな枝豆の緑。そこに紅葉が一枚、ひらりと散らされている。目に飛び込む季節感こそ、和食の醍醐味である。

食材そのものは決して珍しいものではない。我が家の冷蔵庫にもありそうなものばかりだ。しかし、かぼちゃの皮の模様にふと目を留めた瞬間、そこに大きな違いがあることに気づく。丁寧に手をかけられたものだけがもつ、存在感である。

さらに、ふくらぎのお造り、小ぶりな鯖寿司、揚げたての天ぷら、そしてなめこの味噌汁。
これ以上の幸せがあるだろうかと思わせる、完璧なお弁当であった。


茶寮は年内29日まで、正月は2日から営業とのこと。年の瀬の買い物がてら、また寄らせてもらおうと思いながら帰途についたのである。

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