学ぶことの意味を教えてくれた‐高田郁著『星の教室』

坂本九の「見上げてごらん夜の星を」は、永六輔が夜間学校に通う学生のために書いた詞であるという。
同じく「上を向いて歩こう」は、安保闘争に敗れた自分たち若者を励ますために作られたものだ。
どちらの曲も、弱い立場にある人を励ますという共通したテーマを持っている。
そのことを知ったのは、高田郁の小説『星の教室』を読んだときであった。

夜間中学の存在については、まったく知らなかった。
おそらく、多くの人が同じではないだろうか。
調べてみると、現在全国に62校あるという。
さらに、2020年の国勢調査によれば、義務教育を修了していない人は国内に約90万人もいるそうだ。
そのうち、小学校卒が80万4293人、そして小学校にも中学校にも在籍しなかった未就学者が9万4455人に上る。
この数字の大きさに、教育の現実を知ることになった。

『星の教室』の主人公・潤間さやかは、いじめが原因で中学校に通えなくなった少女である。
引きこもりの日々を送っていたが、映画好きが高じてレンタルビデオ店でアルバイトを始めることになった。
イラストが得意だったため、店のポップづくりを任されるようになり、そこで初めて他者に認められる喜びを知る。
しかし、履歴書の提出を求められた際、最終学歴が「小学校卒」であることに戸惑いを覚え、職を失うのではないかと怯える。
そんなとき、彼女は「夜間中学」という場所の存在を知るのである。

夜間中学には、年齢も国籍も、通えなかった理由もさまざまである人々が集まっている。
学び直しを望む大人、外国にルーツを持つ人、家庭の事情で学校に行けなかった人。
さやかは彼らとの出会いの中で、自分の殻を少しずつ破り、人と関わることの温かさや学ぶ喜びを取り戻していく。
小説を通じて、学ぶという行為が単なる勉強ではなく、「生きる力」そのものであることに思い至った。
印象に残ったのは、「文字を読めないことで騙され、すべてを失った」という人物の言葉である。
その人は、文字を覚えたとき、それが『誰にも奪えない自分の財産』だと気づいたと話している。
この一言に、胸を打たれた。
知ること、学ぶことは、社会の中で自分を守り、自分を立たせるための基礎である。
それを当たり前のように享受してきた自分が、いかにノー天気な日々を過ごしてきたかと振り返らされた。

『僕達はまだその星の校則を知らない(2025年製作のドラマ)』は「星の教室」が原作であったらしい。
その頃はこの本を読んでなかったのでドラマも観てないのは残念であった。

夜間中学という場を通して描かれる人々の姿には、希望も、痛みも、そして確かな光もある。
「学ぶことは生きること」――その当たり前のようでいて重い言葉が、読み終えたあともずっと胸に残った。

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