暮らしの愉しみ–向田邦子・向田和子著

向田邦子が今生きていたら96才くらいだろうか。飛行機事故で急逝されてから40年以上が経った。
才能のある人は早世する、もし、もしもだけれど、生きていたら老後はどのように過ごされているか知りたいところ。
さぞかしカッコ良く、後に続く人の指針を示してくれただろう。
悲観的な事は言わず、優しく寄りそう言葉で書いてくれただろう。

「暮らしの愉しみ」には彼女がものを見つける「愉しさ」が書かれている。
この本から伝わるのは手に入れるための真剣勝負である。
本の中には、庶民では手の届かない本物の書や骨董、絵画が写真で残されている。
中川一政の書画にはごくりとつばを飲み込んだ。
彼女は、それらを購入した時の心境を書いている。
その心中や、全く同感。
それぞれの財布に相談するのだから私と彼女の買い物には2桁もしくは3桁以上の違いこそあれ、「心中お察しいたします」と言いたくなる。腹いっぱいにして、現金は持たず、決戦のように勢い込んで出掛けるそうだ。
その決意も瞬間に崩れ「服を買ったと思えば」「バッグを買ったと思えば」と置き換えをしていつの間にかお持ち帰りとなった「暮らしの愉しみ」が詰まった本だった。

旅が好き、食べることが好き、物が好き。

この本の最初は「台所の匂い」として普段の夕食メニューの紹介がある。
あーこんなの食べてたなあーと思うと共に直ぐに作ってみたくなる。
料理を作れば器も必要、だから自然に器好きにもなる。
そして、美味しいものを食べに行って学ぶことも増える。
全く自然に流れて出来上がったような本だ。

そんな彼女を悩ませたのは、右胸に乳がんを発症したことだ。
1975年当時、がんは不治の病と言われ、摘出手術後の輸血が原因で血清肝炎まで併発していた。
「悪くすれば余命半年」と宣告を受けていたが、1980年左手で書いた『思い出トランプ』に収録の「花の名前」他2作で直木賞を受賞した。

爽快なほど太く短く生きた人だ。

苛立つようなニュースが続く時、向田邦子の本を読みたくなる。


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