ロッキード‐真山 仁著

背表紙だけでも4-5cmはあろうかと思う、ずしりと重い本を手にした時に、この本の読了に半年かかるとは夢にも思わなかった。
到底片手では持てない、文庫本3巻くらいにしてくれたらいいものをと思いながら、赤い字で書かれた「ロッキード」と田中角栄元総理の写真に刺激されて義務感のように読み始めた。

この本を読むと日本の政治は今も昔も変わらない。アメリカ政府と日本の政治家の思惑の前に国民は無力だ。
真実を知るのは歴史が動いた後になる。
ロッキード事件は、1976年7月田中角栄・前総理(当時)が東京地検特捜部に電撃的に逮捕され、日本中に衝撃を与えた事に端を発した。
当時私は、政治に無関心な31才で富山市に住んでいた。
ロッキード、ピーナツの文字が躍る新聞と、テレビの報道を観ながらあれほど期待した田中角栄に失望していた。
連日、田中角栄叩きの報道の末、いつの間にか沈静化していったロッキード事件は私の胸をモヤモヤさせていた。

田中角栄は本当に大疑獄の真犯人だったのかと作家の真山 仁は膨大な資料を読み解き出来うる限りの人に会いノンフィクション「ロッキード」を上梓した。
読み終わるのに半年かかるほど進めなかった理由の一つは聞きなれない戦闘機についての記述部分が多かった。
戦闘機とロッキードは切り離せない。この事件を知るには重要部分なので分からないながら外核を理解した。つもり。
当時の日本はアメリカの言いなりに武器、航空機、戦闘機を買う国だったようだ。
多分それは今でも変わらないだろう、先日のキャンプデービット日米韓首脳会談でもしっかり武器、戦闘機の買い物を要請をされているのではないか。この本を読んでから常にそういう見方になってしまう。
戦争はアメリカの軍需産業を潤し、国益に寄与している。

ロッキード事件は1972年のウォーターゲート事件に端を発して日本に飛び火した。
ウォーターゲート事件はアメリカのチャーチ委員会が糾弾しニクソンを辞任に追い込んだ。
当時の実力者、キッシンジャーはチャーチ委員会の目をウォーターゲートから逸らせるために、ロッキードによる航空機売り込みで巨額の賄賂がばらまかれた日本を生贄に差し出したとされている。

中曾根康弘は当時、この賄賂を受け取った政府高官の名前を公表しないようにもみ消しを米側に要請している事が米側公文書に残されている。
理由は政府高官の名前が表に出ると自民党が選挙で負けて日米安全保障の枠組みが壊されると言うのが表向きの理由であるが、中曽根の護身ではないか。当時フィクサーとして知られた児玉誉士夫と中曽根は旧知の仲で、児玉は中曽根は総理大臣になる器として相当額の政治資金をつぎ込んでいる。
それでも、ロッキード調査特別委員会の証人喚問で、中曽根は児玉とは親しくないと証言している。

時の首相三木武夫がチャーチ委員会での証言内容や世論の沸騰を受けて直々に捜査の開始を指示、同時にアメリカ大統領ジェラルド・フォードに対して捜査への協力を正式に要請するなど、事件の捜査に対して異例とも言える積極的な関与を行った。

首相の発言と中曽根の裏工作でアメリカ側に日本は弱みを握られた。
三木総理の大奮闘と東京地検特捜部の活躍でチャーチ委員会等に資料を請求し児玉誉士夫に渡った2億円の解明が焦点になった。
ウォーターゲート事件後のフォード大統領もロッキード事件をうやむやに出来なくなり、キッシンジャーの思惑で田中角栄は渦中に引き込まれた。前総理に疑惑を向ければ政党は一致団結して田中を守り、疑惑はうやむやになると日本の政治に精通したキッシンジャーは読んだ。
ところが三木武夫はその真逆をいきロッキード事件は思わぬ展開になった。

田中にとって不幸だったのは、今太閤と呼ばれて上り詰めた総理に対する国民の称賛がいつしか嫉妬になり逆風になった事だ
マスコミの報道の仕方もあってか国民には、田中への賄賂は弁解の余地なく真実と受け止められた。
真山は数々の検証から、現金の受け渡し場所が到底あり得ない場所であったり、戦闘機に詳しくない田中の無関心な発言からも田中角栄が真犯人ではなくもっと黒い政治家はいると推測している。
真山の疑惑は佐藤栄作に向かった。
アメリカの核を積んだ船は日本に出入りすることは暗黙の了解であったが、佐藤は非核三原則でノーベル平和賞を受けている。
長期政権であったが大きな仕事を成し遂げてない佐藤にとって沖縄返還は悲願であった。
アメリカはそこに付け込んでロッキードの経営危機を回避するために同社の製品を買うように依頼している、それは全て沖縄返還を果たすためだった。
沖縄返還2か月後に政権は田中角栄に替わった。
果たして角栄はその短い在任期間にロッキードと佐藤以上のつながりが持てただろうか。
関係者が鬼籍に入りロッキード事件の真相は闇の中になった。

けれども、この本を読めば日米の力関係の歴史や日本の武器輸入にいくらか関心が向いた。

昨日のニュースでは殺傷能力のある武器の輸出を解禁すると政府は発言している。
台湾有事も当然のように公言する政治家もいる。
絶対に戦争はしない国ではなかったのか日本は。
しかし、想像以上に軍事産業は活況らしい。

「ロッキード」を読了してホッとしている。書かれている歴史の真実は私の知るレベルの内容とはかけ離れていて、理解するのに時間を要した。勘違いしている部分もあるかも知れないと思いながらこのブログを書いている。
もう一度読めばもっと理解できるかもしれないと思うけれど、今のところは気力がない。

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