黄山図巻との思わぬ再会――美術館で旅の記憶がよみがえる

「帰ってきた泉屋博古館 いにしえの至宝たち」を鑑賞すべく、京都・岡崎の泉屋博古館を訪れた。約1年にわたる大規模な改修工事を経て、このたび再開館を迎えた同館は、展示品のみならず、建物自体も見事に生まれ変わっていた。
まず注目すべきは、泉屋博古館の建築美である。外観は和の落ち着きを保ちながらも、現代的なエッセンスが巧みに融合されており、庭園との調和も絶妙であった。
東山を借景とした建物は、まるで美術品のひとつとして建物そのものが存在しているように感じられた。
第1期では主に紀元前の考古資料から平安時代~江戸時代までを中心とした住友家伝来の品々が展示されていた。
宗教美術や江戸絵画、中国絵画、茶道具などが展示されていてまさに「至宝」の名にふさわしい内容であった。保存状態も極めて良く、解説パネルも丁寧で、初心者にも理解しやすい構成となっていた。
朝一番に入館したため、館内は静かで空いていた。しかし、そこには数名の美術愛好家と見受けられる来館者がいた。音ひとつない静寂のなか、私はやや緊張してしまった。とある掛軸の前では、一人の鑑賞者が長く佇み、案内パネルを凝視していた。続いてその掛軸をじっと見つめる様子に圧倒され、私は自分の鑑賞のテンポを乱されることとなった。いくつかの展示を飛ばしながら、ようやく自分のペースを取り戻し、再び心静かに美術と向き合うことができた。
掛軸の鑑賞は苦手な私であったが、目が留まったのは、石濤による《黄山図巻》である。黄山は、2018年に私も訪れたことのある中国の名峰であり、思いがけず親しみがこみ上げてきた。本作は中国・明末清初の画家、石濤によって描かれた水墨山水画で、重要文化財にも指定されている。雄大な自然を墨で表現したその作品は今回の鑑賞における最大の収穫であった。
展示の中で特にユニークで印象に残ったのは、「小さきものたち」と題されたコーナーである。香合、刀装具、印材といった小型の工芸品がずらりと並べられていた。どれも精密な装飾が施され、素材の魅力が最大限に引き出されていた。中でも印材には思わず目を見張るものがあり、香合には可愛らしさと優美さが共存していた。ひとつでも手に入れることができたら、どんなに素敵だろうと想像しながら、飽くことなく眺め続けた。
再開館という節目にふさわしい本展覧会は、古美術に親しむ者はもちろん、建築や空間美に関心のある者にとっても見逃せない内容であった。朝一番の静かな時間の流れとともに、いにしえの美に浸る贅沢を味わうことができた貴重なひとときであった。
泉屋博古館は、文化と歴史が息づく、まさに「美の聖域」と呼ぶにふさわしい場所である。
6月21日からは「続・帰ってきた泉屋博古館」と題した第2期展がはじまり、近代美術の名品が展示されると予告されている。次回の訪問が今から楽しみでならない。
写真撮影は禁止のため、展示品の写真は掲載しておりません。詳細は泉屋博古館公式サイトをご確認ください。
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