秋の訪れを彩る和食弁当—山代温泉「茶寮中尾」で味わう美と季節感

秋色の和食を求めて山代温泉の茶寮中尾まで足を伸ばした。
6月に伺った時の弁当の美しさと、美味しさが忘れられなくて、涼しくなる日を待ち焦がれての再訪である。
初めて伺った時に柔らかな物腰でお迎えされ、その瞬間から中尾のファンになった。
茶寮中尾は山代温泉の中心地から少し外れにあって、大きな旅館街の中で平屋の佇まいは心を和ませる。

席に案内されると直ぐに大きな木の皿が運ばれた。

皿のかいしきは檜の葉やドングリが飾られて、すっかりと秋景色だった。
小さな器に入ったスープはメレンゲが蓋になっている。和食では珍しいけれど、器使いと共に大将のセンスが光っている。
一口含むと「ほぉーと」声が漏れた。最初の一口は特別に美味しい。
栗の味がするが、南瓜だろうか。
正解は安納芋だった。誰も正解者なし「けれど栗の味がしたよねー」

和食の盛り付けや器使いには外国料理にない季節感がある。
部屋の架け花の生花も凛と定まっている。茶室に通された時のように生花や器に目を奪われた。

「何を食べるか」と聞かれたら「和食」を選びたい。
しかし、和食の世界は私の想像では到達しようがないほど奥が深い。
迂闊に足を踏み入れられない目に見えない結界を感じている。つまり敷居が高いという事。
中尾はHPを拝見した時にピンときた、その頃は割烹だったけれど今は茶寮となっている。
けれど、器やおもてなしの品の良さは流石に割烹の風格が残る。

メインは三方の上に豊穣の秋をまとって運ばれた。


珍しい小花の萩の花と、菖蒲に似た細い葉が小さく束ねられて料理のあしらいに。青くて硬いイガイガの栗や、栗の葉が散りばめられて盆の上に秋の風景が広がる。

和食の奥深さと、季節の移ろいを感じさせる茶寮中尾でのひととき。
料理は勿論、盛り付け、生花の生け方全てが五感に訴える。
今年の秋の始まりに記念になる贅沢な時間だった。

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