居場所を得た小さな椅子

数年前、玄関用に小さなスツールを購入した。お客様が靴を履いたり脱いだりする際に使っていただければと思い、控えめなデザインのものを選んだ。しかし、現実にはその機会はほとんど訪れず、スツールは玄関の片隅で静かに時を過ごしていた。
日常の中で特に必要とされることもなく、時折掃除の際に移動させる程度の存在。処分するには忍びないが、かといって目立った活躍もない。まるで自らの役割を見つけられず、所在なさげに玄関に佇んでいるようであった。
ところが、最近になって思いがけずそのスツールの出番が増えた。来客が続き、玄関での動作が必要になるたびに、誰もが自然とそのスツールに腰かけるようになった。「ちょうどいい高さですね」「これは便利」と、意外なほど好評を得ている。長らく黙していたスツールは、ようやく本来の役割を果たす機会を得たのである。
そして、私自身が膝をグリっとひねってしまい、動くのもままならない状態になった。着替えすら難しい日々が続く中、スツールは黙って私を支え続けてくれた。あの小さな椅子なしに身支度を整えることは考えられなかった。
まるで「やっと自分の居場所を見つけた」と言わんばかりに、スツールは今日も忙しく働いている。しかし、その静かに佇んでいた長い時間を思い出すと、どこか切なさも込み上げてくる。
思えば、我が家を訪れるお客様の高齢化もまた進んできたということか。必要とされる場面が増えたのは、そんな時代の移り変わりを映す一面でもあるのだろう。
これからもこのスツールは、玄関の片隅で、訪れる人々や私自身を支え続けてくれるに違いない。
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