「玄蕃之丞」と上條恒彦さんを偲んで

上條恒彦さんが85歳で亡くなられたという報に接し、朝からずっと、ある一曲が頭の中で流れている。「玄蕃之丞(げんばのじょう)」という歌だ。
上条の舞台は観たことがないが、この曲を聴くと、まるで物語の中に入り込んでしまうような感覚になる。収録されているのは『冬の森にて』というCD。桔梗ヶ原に棲んでいたキツネの親分・玄蕃之丞が、仲間を蒸気機関車にひかれて失った怒りから、自ら汽車に化けて線路を逆走し、人間と対決するという伝承をもとにした楽曲だ。
桔梗が原に蒸気機関車が走る前まで、自由に走り回るキツネたちの日々。夜には「コーン」と鳴きあう恋人キツネたち。
ラストに響く、列車の急ブレーキ音。切なさと勇ましさが交錯し、上條さんの声ですべてが表現される。
この曲を聴くたびに、見たことのない桔梗ヶ原が私の中に広がる。そして今もCDは手元にある。これからも聴き続けるだろう。
直接お会いすることはなかったが、上條恒彦さんの声は、確かに私の中で生きている。ご冥福をお祈りします。
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