心の傷を癒すということ:震災と絆の物語

ドラマ『心の傷を癒すということ』の全4話を一気に鑑賞した。なにげなく観始めた1話目から、気づけばドラマに引き込まれ、あっという間に最後まで没頭してしまった。この作品は、2020年に「阪神・淡路大震災」から25年を迎えた時に放映されているので再放送である。
何故ここまで没頭したかと言うと、実話に基づいたヒューマンドラマであると言う事が大きかった。
『心の傷を癒すということ』は、自らも被災しながら被災者に寄り添い、心のケアに尽力した精神科医・安克昌(あんかつまさ)氏の実話をもとにしている。安氏は、災害時の心のケアという未開拓の分野における先駆者として知られる精神科医であった。
原作は、安克昌氏の著書『心の傷を癒すということ~神戸・・・365日~』で、第18回サントリー学芸賞を受賞した名著である。PTSD(心的外傷後ストレス障害)の研究者として活動を続けた彼は、2000年12月、肝細胞がんのため39歳の若さでこの世を去っている。
安克昌氏は在日韓国人として生まれ、幼少期に自分の本名が「安田」ではなく「安」であることを知り、アイデンティティに悩むようになった。また、実業家の父親は「こころ」という抽象的な分野での医師になることに反対し、安氏を理解しようとはしなかった。しかし安氏は、心に寄り添うことの重要性を追求し続け、その姿勢は、震災で心に傷を負った多くの人々にとって大きな支えとなった。
震災直後、被災地では「食料」や「傷の手当て」といった物理的な支援が優先され、「心のケア」に注目が集まることは無く肩身を狭くすることもあった。しかし、被災者たちの抱える罪悪感や疲労感、そして心の問題が表面化するにつれ、安氏の活動は必要不可欠なものとなっていった。
震災当時、安氏には妻と子どもがいた。一時的に妻子を大阪の実家に避難させたものの、実家はバブル崩壊による経済的な困難に見舞われていた。その影響で、妻はストレスから体調を崩していた。この状況を深く反省した安氏は、すぐに家族を神戸に呼び戻した。しかし、自身の多忙な仕事の中で家族と向き合う時間が取れず、葛藤を抱え続けた。それでも彼は、妻と子どもにとって癒しの存在であり続け、父親としての役割を全うしようとしていた。
癌との闘病中も、3人目の子どもの誕生を目標に頑張り続けた安氏。その願いは叶い、子どもが生まれた翌日に安氏は旅立った。
現代は、生存競争が厳しく、格差が拡大し続ける時代である。その中で、「心のケア」は以前にも増して重要性を増している。安氏は、自分ががん患者となってからは、精神科医としては「ひとりひとりが尊重される社会」を目指したいと考えるようになっていた。
このドラマは、家族の絆と被災者たちとの絆、両者が織りなす「心の絆」の大切さを教えてくれる。安氏が生きた証は、今も多くの人の心の中に息づいている。
この感動の物語は、NHK+で視聴可能です。ぜひ多くの方にご覧いただきたい作品です。
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