blank page 空っぽを満たす旅ー内田也哉子著

『blank page 空っぽを満たす旅』は、俳優・樹木希林とミュージシャン・内田裕也という、あまりにも個性の強い両親のもとに生まれた内田也哉子が、人生のなかで感じてきた空白や違和感を、どのように受け入れ、乗り越えてきたかを綴ったエッセイ集で「週刊文春Woman」で連載されたものをまとめた1冊である。
15名の個性的な人物とのインタビューで校正されているが、綴られているのは「インタビュー記事」ではなく、彼女の中から出てきた言葉である。
本書を通じて特に心に残ったのは、彼女の「空っぽ」を肯定的に見つめる視点である。多くの人が避けたがる内面の空白を、彼女は逃げずに見つめ、そのまま受け止めている。そしてその姿勢が、読む者に共感を与える。空虚を恐れるのではなく、空っぽだからこそ満たされる可能性がある。そんなメッセージが伝わる。
また印象的だったのは、彼女が有名な両親の娘として背負ってきた苦労について、率直に語っている点である。華やかに見える家族の中で「普通」であることの難しさ、自分の居場所を見つけることの苦悩が描かれている。
15名とのインタビューは死生観や家族観が主題になっている。その中で、マツコ・デラックスとの対話が印象に残った。
自らを「バランスの世界に生きている太ったおっさん」と称するマツコもまた、並外れた人生経験を持つ人物である。
マツコが仕事を辞めて引きこもりになった時に、母親はサッサと家を引っ越して「新しい家には、あなたの部屋はない」と宣言したそうである。
そういう母親に育てられたマツコの現在の活躍を思うと、その言葉の奥にある心情や、逆境を受け入れてきた強さとは、何であったのか。マツコの心の闇に触れる対談であった。
文章の巧みさも、この本の大きな魅力の一つである。内田也哉子の言葉には、華美な装飾はないが、選び抜かれた一語一語に重みがある。彼女がどのように他者と距離を取り、またどう心を開いていくのかという過程が鮮やかに描かれている。
あまりにも巧みな文章ゆえに、時には難解に感じて読み進めるのに時間がかかったことも白状しなければならない。私にとっては、子どもと変わらない年齢の内田也哉子の文章力、構成力、そして知識の深さに、ただただ圧倒されるばかりであった。また、「あとがき」は心を打つ文章がつづられている。
「今一度、大切なものを失った寂しさと、そもそも出会えた幸福をじっと見つめ、そっと寝かせてみる。急ぐことなく、嵐のあとの静寂に耳を澄ますように」
これもあとがきの一文である。
どんな年齢の方にも、何時読んでも心に残る一冊になるのではと思う。
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