小林カツ代と栗原はるみ(料理研究家とその時代)ー阿古真理著

この本は日本の家庭料理に対する二人の料理研究家の深い影響を描きながら、それぞれの時代の背景や個々の生き方が、日本の食文化にどのように反映されたのかを著わした本だ。
ふたりは、異なるアプローチを持ちながらも、家庭料理を担う女性に影響を与え、家庭の中で料理が果たす役割や、そこに込められた考え方の変遷を示している。

今年は小林カツ代没後10年目である。彼女の時代は女性の社会進出が目覚ましい時代であった。1979年のオイルショックの不況に始まり既婚女性が「パートタイマー」と言う名の元、社会に進出して、既婚の正社員がリストラされるという背景があった。
その時以降、正社員と同じ責任を負わされるのに給料は安く社会保障のないパートタイマーが増加した。
中途半端な立場は今日まで続き、女性の生涯賃金を押し下げ貧困層を広げている背景に政府・自民党による政策があった。
そんな時代を背景に彼女の料理は「忙しい時代」に主婦が簡単に出来るという時短で美味しく作れるレシピの提案で、多くの家庭に受け入れられた。 小林カツ代の追悼番組に寄せられた投稿は、働く母だった人たちからの「多忙を乗り切れたのは小林カツ代さんのおかげ」と言う声が多く寄せられた。

一方、栗原はるみは1980年代から90年代にかけて、日本が高度経済成長を達成した後の豊かな時代に登場した。
彼女の料理は、家族のための献立というだけでなく、もてなしやお洒落さを前面に出した「新しい家庭料理」のスタイルを提案した。
栗原はるみのレシピには、食材の豊富さや美しさ、盛り付けの工夫にもある。料理の視覚面に気を配った新しい価値観が見られる。彼女の料理本は、シンプルでありながら洗練されたレシピが豊富で、特に女性たちに「自分らしい生活」を提案している。
彼女の凄さは毎年大量のレシピを提供し続けている事だ。母親に教わったという「めんつゆ」を常備してあらゆる料理にアレンジしていった。このように下準備をすることにより簡単に料理が作れることを提案し続けている。
2011年のNHK番組「プロフェッショナル仕事の流儀」ではレシピが完成するまで作り続ける試作にスポットを当てた。
「百人が作ったら百人が美味しく作れるレシピ」を目指す栗原はチャーハンひとつにもパラパラ感を出す方法を1か月研究し続けて、火加減、油の量、入れるタイミングを何度も繰り返して確実な方法を導き出そうとする。台所環境や作る人の癖や好みによって味は変わるとは言わない姿勢が評価されている。

この本で感じたのは、料理研究家としての二人が、それぞれの時代における「女性の生き方」や「家庭の在り方」を反映しているという点である。 小林は料理は「家庭の支え」として捉え、栗原は「楽しむための場」としての家庭料理を強調しているように見える。この対比が非常に興味深く、料理時代の変遷を感じることが出来た。

下記はamazonでこの本を紹介した文章である。
なるほどと納得したので原文のまま拝借した。

家庭料理の〝革命家〟と〝カリスマ〟の魅力に迫る、本邦初の料理研究家論!
テレビや雑誌などでレシピを紹介し、家庭の食卓をリードしてきた料理研究家たち。彼女・彼らの歴史は、そのまま日本人の暮らしの現代史である。
その革命的時短料理で「働く女性の味方」となった小林カツ代、多彩なレシピで「主婦のカリスマ」となった栗原はるみ、さらに飯田深雪、土井勝、辰巳芳子、有元葉子、高山なおみ、ケンタロウ、コウケンテツ……。百花繚乱の料理研究家を分析すれば、家庭料理や女性の生き方の変遷が見えてくる。これまで誰も語らなかった料理研究家論。


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