森のなかの海 ‐ 宮本 輝 

この本は阪神淡路大震災の朝から始まる物語である。

震災の事を書こうとしている本ではなく、震災と共に主人公である仙田希美子の平穏な人生も崩壊し、その後の再出発の物語である。
しかし、この本を読み始めた時、私は16年前の震災の日をまざまざと思い出した。
その朝は大津もひどく揺れて震源地は大津だろうと思った。
テレビを入れて初めて淡路島が震源地だと分かった。
いや、震源地は神戸だと思っていたかもしれない。
その後も暫くは様子が分からず、これほどに被害が広がっているとは想像もしなかった。

物語に話を戻して。
いつもと同じ朝を迎えていたなら確実に死んでいたかもしれない希美子は、前夜夫とのいさかいで別室に移り難を逃れた。
その後、夫に急かされて大阪の同僚のマンションまで徒歩で脱出をするが、石の鳥居の下敷きになっていた知人や倒壊した家から突き出た手や足の惨状を目の当たりにし、それらを見捨てて脱出する自責の念は、夫の不可解な行動を詮索する気力すら起こらなかった。
希美子の夫は希美子を同僚の家に残したまま、愛人の家に行ってしまうところから小説は展開していく。

宮本輝は私の好きな作家なので、どれを読んでも面白いのだけれど、1章を読むと他のページに進んだ時にこの本だけは、かなり違和感を感じる。
私は震災にあったら脱出しただろうかとはこの震災の時以来いつも自分に問うている。
多分脱出はするのだろうと思う。
けれど、親しい友人が家の下敷きになっていたら・・その場を離れられないような気もする。
自分だけ助かったら、その後の人生は笑う事も許されないと思うかもしれない。
現実に苦しみ続けている人は沢山いる。
そんな気持ちを重ねながら読んでいたので、希美子が急に奥飛騨の広大な土地や屋敷を相続して展開していく物語に気持ちが乗りきれない。

あの震災は今生では信じられない現実だった。


2011年1月17日 積雪の朝

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