思いがけない祇園祭との出会い
京都の四条通り近くで車から降りた途端、「コンチキチン」という音が聞こえてきた。「そういえば祇園祭の季節だった」と思い出すも、私にはあまり縁のない行事である。なぜなら、祇園祭のような大規模なイベントの人混みは苦手だからだ。しかも、京都で一番蒸し暑い季節でもある。
家では「そろそろ山鉾の組み立てが始まったかしらねー」と話すことはあっても、「今年は行ってみようか」と思いつくことはない。毎年、テレビのニュースで祇園祭が始まった事を知るだけだ。
ところが今日は、歩道いっぱいの人波の向こうに長刀鉾の大きな山車が見えた。音の源はその辺りからのようである。
急に、20代の頃に初めて、そして最後に見た祇園祭を懐かしく思い出した。
宵山祭りの頃は大抵夕立がある。熱気の中、大雨が降り、蒸気がむらむらと上がる。手をつないでいても人混みで逸れそうになりながら、山鉾は見えず、人の背中ばかり見て、そこから抜け出すことばかり考えて歩いたものだ。
今日は、祇園祭の「前祭り」に参加する山や鉾の組み立てが行われており、試しに引く「曳き初め」が行われていた。見物人で溢れる歩道とは対照的に、車道は車が通るため少し開けていた。「音頭取」の「エンヤラヤー」というかけ声に合わせて全員が一斉に綱を引くと、高さ約25m、重さ10tを超える鉾がゆっくりと動き始めた。稚児や囃子方など約60人を乗せた鉾の車輪がミシミシと音を立てて進むと、大きな拍手が沸き起こり、約400mの距離を往復した。
思いがけない風景に出会い、用事を忘れてしばし見とれてしまった。動く芸術品と言われるだけあって、祇園祭の山鉾は他のどの地域の山鉾よりも大きく荘厳に見えた。
「祇園祭嫌い」の私に、神様が見せて下さったような光景であった。雨上がりで暑くもなく、人混みもそれほどではなく、私にとって最高の「祇園祭」となった。
祇園祭の前祭の山鉾巡行は今月17日に行われる。
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