年々淋しくなるということ

ズワイ蟹のメス、いわゆるセイコ蟹の漁獲時期は、資源保護の観点から十一月六日から年末までと厳しく限定されている。
その短い旬の間に、毎年欠かさず十年くらい足を運んできた店が、加賀市橋立町ロにある「舟重」さんである。
今年はありがたいことに、早い時期に頂き物でセイコ蟹を存分に味わって、満ち足りた気分で十一月を過ごしていた。しかし気がつけば、例年のルーティンである舟重さんへの訪問が叶わぬまま、十二月に入ってしまっていた。
十二月は何かと気忙しく、今年は見送るべきかと家人と相談したところ、「やはり毎年のことだから、行かないと心配されるかもしれないね。」という一言に背中を押された。そこで、少し元気を失っている友人を誘い、出掛けることにした。
北陸特有の鈍色の空が広がり、海岸には小さな白波が立っていた。風雪注意の予報も出ており、ついに晴女を返上かと危ぶんだが、幸いにも傘要らず、コート要らずで行動することができた。


舟重さんの玄関を開けると、ふわりと蟹の匂いが流れてきた。いつものテーブルが予約されており、変わらぬ温かい笑顔で迎えてくれる。

ここはご夫婦二人で切り盛りされている店である。以前は金沢で割烹をされていたそうだが、高齢になったことを機に橋立港近くへ移り、規模を小さくして入りやすい割烹とされたという。年齢的にはほぼ同世代である。蟹のシーズン中、予約が途切れることはなさそうであった。
提供される蟹はメスのズワイガニのみ。価格も抑えられており、セイコ蟹をこよなく愛する私達夫婦にとっては、これ以上ない店である。
この日の献立は、セイコ蟹一杯に、お造りか茶碗蒸しの選択、味噌汁、香の物、ごはん、そしてデザート。
家では家人が蟹を捌いてくれるが、ここではただの客として座っていられる。それだけで、この店が特別になる。
程よく茹でられた蟹は、塩梅のよい蟹酢と共に、あっという間にお腹の中へ収まった。
デザートはりんごであったが、上品に少量というわけではなく、家庭で食べるように大きく切られてどんと出てくる。嬉しい反面、ごはんを残せばよかったと後悔するほどである。
「ご馳走様。今年は来られないかと思ったけれど、やっぱり来て良かったわ。」
そう声を掛けると、「私達も、来年は分からないから。」と、思いがけない言葉が返ってきた。
慌てたのはこちらである。「来年も続けて下さいよ。楽しみにしているんですから。」と言葉を繋いだが、「ほんと、分からなくなりましたわ。」と返されてしまった。
「それは困ります」と言ってみたところで、年間に三度ほど訪れるだけの客に、引き留める力などあるはずもない。
日々感じる自身の不調の数々。それは舟重さんご夫婦とて、同じことであろう。
これからは、もっと顔を出そうと思っている。
気がついた時には、急なクローズに出会わぬように。
年々、淋しくなるのである。
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