「ちらし寿司の夜に

姪が新居へ越していく前夜。
何をご馳走しようかと朝から考えていたけれど、特別な料理よりも、私の得意料理である「ちらし寿司」に落ち着いた。
夕方、引っ越し準備でくたくたになって帰ってきた姪は、いつもより少し多めによそったちらし寿司を、ゆっくりと、それでも頑張って口に運んでいた。家人が丹精して作った干し柿も添えた。私はその日はしんどくて果物までは手が伸びなかったけれど、食が細い姪が残さず食べたのを見て、ほっとした。
食後、姪は椅子に座ったまま、すぐにうとうとと眠り込んでしまった。
思えば、一年前に突然飛び込んできた「夫が亡くなった」という電話は衝撃だった。
ひとりでその最期を看取った彼女の心は、想像しても余りある。
我が家へ来てからの十か月、九州、北海道、四国、山陰、北陸、信州と、彼女の知らない土地へ旅をした。どれほどの慰めになったのかは分からないけれど、京都の商家でお女将さんとして立ち働いていた頃とはまるで違う日々を、彼女は過ごしたと思う。

引っ越しは、きっと今の姪には心身ともに重い作業だろう。
けれど、新しい家はきっと、新しい人生の出発を後押ししてくれるはずだ。
お互いに残された時間は、十年もあるかどうか。
けれど、五十年ぶりに同じ屋根の下で過ごした十か月は、子どもの頃の関係に戻ったように過ごした。
残りの人生に、どうか幸多からんことを。
ちらし寿司を囲んだ、この最後の夜に、そんな祈りを込めた。
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思いがけない事で再会され、10ヶ月程一緒に生活されたのですね 膝不調の時どんなに助けられたかお聞きしてます。今、一抹の寂しさが
あるでしょうね~
ブログ拝見して、さぞ楽しい10ヶ月送られたか、こちらまでその時の気分を
味わっいます
何故か 胸が熱くなりました
明子さん、思いがけない日々を過ごしました。お互いを見習う所もあり有意義な期間だったと思います。中々出来ない事を経験しましたわ。