小さな旅-尾道

海が見えた。海が見える。 五年振りに見る尾道の海はなつかしい。 汽車が尾道の海にさしかかると煤けた小さい町の屋根が提灯のように拡がってくる。 赤い千光寺の塔が見える。山は爽やかな若葉だ。 緑色の海の向こうにドックの赤い船が帆柱を空に突きさしている。 私は涙があふれていた。
(放浪記より)

尾道は志賀直哉の暗夜行路、林芙美子の放浪記や大林宣彦映画の舞台になった町。
山陽道の明るい町というよりも、汽車の通過する音とお寺の鐘の音が聞こえる影のある町のイメージがある。
あの映画の様な坂道を歩きたいと思ったけれど、町の様子はかなり変わっているようだった。
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レンガ坂に行くと昔の面影の坂があるらしいと聞いてその道を辿った。
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くねくねと曲がる坂道は車は通れない。
その坂の上まで家並は続き、引っ越しは?救急車は?宅配便は?消防車は?と、町の生活に慣れた私たちの頭の中では考えられない風景が続いていた。
住民の方に質問をすると「火が出たら、もう終わりだわね」という答えが返ってきた。
坂の町は長崎同様に情緒があるけれど、住むには辛い町のようだ。
尾道に行きたいと言ったSさんは、尾道水道の両側に広がる尾道の町並みや千光寺の屋根に小説の世界を見つけたいと言う思いを長い事抱いていたのではないだろうか。
けれど、尾道に暗夜行路や放浪記の時代を感じる場所はなかった。
昭和世代にはなつかしいけれど、尾道にも人の暮らしがある以上変化することは仕方がない。
小説の世界は頭の中のファイルに保存するしかない。

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