お名前を頂戴しましたから

マウレ山荘も、1年ぶりの訪問になる。
ここでは、静かな佇まいと温泉、そして美味しい食事を楽しみにしている。
マウレの食事は、和洋折衷のコース料理である。
味わいを楽しめる料理で、その上、決して多すぎない。
前菜に盛り付けられた小さな料理の中で、一番記憶に残ったのは「秋刀魚の南蛮味噌焼き」だった。
焼いた秋刀魚をクルクルと巻いて、上にたっぷりと南蛮味噌を塗り、少し炙ってある。

ここの素晴らしさは、食事だけではない。
常にテーブルに気配りしているホールスタッフの存在である。
私たちはアルコールをオーダーしないので、幾分、肩身が狭い思いがある。
「申し訳ないけれど、この水があればアルコールは要りません」
すると、ホールスタッフが、
「温かい、お茶はいかがでしょうか?」
と尋ねてくれた。
それだけでも嬉しい。
そして去年と同様に、私の椅子の後ろにクッションを差し入れてくれるのである。
食事の終盤には、締めのお蕎麦が提供される。
それまで一皿ずつ料理の説明をしていたスタッフが、
「これからはお蕎麦です。以降は去年と同じですから」
と言った。
私は驚いた。
「覚えておられましたか?」
すると彼は笑いながら、
「事前に、お名前を頂戴いたしましたから」
と、照れくさそうに自分の顔の前で小さく手を振った。
実は今回、ホテルのフロントの対応に少し変化があり、がっかりしていた。
フロントのスタッフは、
「客室へご案内します」
と言って案内してくれた。
エレベーターに乗ると、
「お荷物をお持ちしましょうか?」
と聞かれた。
家人が「いえ」と答えると、
「そうですか」
と言われた。
「お持ちしましょうか。」ではなく、「お持ちします。」と言われたら、また違っていたはずだと思う。
荷物は運んでもらうほど重くはない。
けれど、「ウエルカム」の気持ちは、そういうところに現れるのだと私は思っている。
部屋に着くと、
「ご滞在は初めてですか?」
「いえ、昨年も」
「では、部屋の説明はよろしいですね。」
そう言葉を残して、フロントマンは去って行った。
その後だけに、レストランのテーブルで聞いた、
「事前に、お名前を頂戴しましたから」
という言葉には、心を動かされた。
翌日の朝食時にも、彼はクッションを持って来てくれた。
彼のお陰で、今回が最後になるかと思った「マウレ山荘」に、来年も来たいという気持ちが残った。

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