養老牛温泉

「湯宿だいいち」は、北海道標津郡中標津町養老牛518にある一軒宿である。
数年前、丹頂鶴の観察で訪れた鶴居村のガイドさんに、「養老牛温泉に是非行って下さい。お薦めです」と言われて、ずっと気になっていた温泉地である。
中標津町は何度か通過しているけれど、「養老牛」という住所には記憶がない。
鄙びた温泉宿を想像していた。
それはそれで好みである。
HPを見ると、辺りは森と川と草原のようだ。
ガイドさんの強いお薦めもあって、段々と期待が膨らんできた。
いつもは真っ暗になって到着する宿を、今回は薄暮の時間に到着した。
想像以上に大きな建物と、広い駐車場に驚いた。
取り敢えず玄関らしいところに車をつけると、スタッフさんが飛び出してきた。
車から荷物を受け取って、今夜の駐車場は玄関から少し遠くなると、気の毒そうに説明された。
昭和の日本旅館の雰囲気が残る湯宿である。
一番驚いたのは、部屋に通されて目にした窓外の景色だった。

窓一杯に緑が広がる。
眼下には川が流れていた。
脳内のドーパミンが一気に噴き出す、好みの風景である。
その一瞬に、ガイドさんが勧めてくださった意図が分かった。
この風景があれば、他に望むものはない。
カーテンは一晩中閉めなかった。
暗くなると、鹿が食事に現れた。
シマフクロウやシマエナガも訪れると聞いていたけれど、気が付いたのは鹿だけだった。
多くの口コミには、スタッフの行き届いた気遣いや、食事内容、温泉を褒めているものが多かった。
スタッフは外国人の方が多く見受けられたけれど、皆さん満面の笑顔で接してくれた。
疲れないかなー、と心配になる。
食事の記憶は、あまり鮮明にはない。
蟹を食べて、「北海道はもう蟹を食べられるのか」と思ったくらいである。

まだ、帯広のイクラやチーズの負担が残っていた。
しかし、嬉しいことがあった。
部屋の備品に「胃薬」を見つけた。
何と気の利くお宿だろうか。
温泉は種類が多く、全部入ろうとすると時間もかかるけれど、疲れるだろうなー。

川沿いに作られた露天風呂は混浴で、入浴を希望すれば浴衣が貸し出される。
私は川のそばに行きたかったから、浴衣をお借りして、真っ直ぐに露天風呂に向かった。

こここそ、私の理想郷。
眼の前の樹々は、紅葉の季節には真っ赤になるのだとか。
あー、その時に来たかった。
かなりゆっくりしたけれど、誰もこの露天風呂には現れなかった。
それほど内風呂やサウナが充実しているということでもある。
私にしては珍しく、朝にもう一度露天風呂に行った。
この時間が、この旅行の中の至福の時だった。

車が見えなくなるまで見送ってくれたスタッフさんの姿に、家人と「良いお宿だったね」と言いながら、30kmほど先の神の子池へ向かって出発した。
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