炎天下に一時間以上並びながら、思わず泣きべそをかきたくなった。

和歌山県紀の川市、桃の産地・荒川でのことである。

例年なら六月のうちに出掛けている。
ところが今年は、家人の入院や私の腰痛が重なり、気が付けば七月になっていた。

桃の最盛期、それも土曜日。
混雑は覚悟していた。

だから朝六時半に家を出て、高速道路を二時間走った。
販売開始三十分前には着いたのだが、駐車場はすでに満車。
長い長い行列が出来ていた。

家人は駐車場順番待ち。
私は一人で最後尾へ向かった。

「整理券のようなものはありますか。」
前に並んでいた方に尋ねると、
「最後尾でカードを渡してくれますよ。」
と言われた。
受け取ったカードには「サービス品五百円」と書かれていた。

販売が始まり、列は少しずつ前へ進む。
炎天下で一時間。
ようやく自分の番が近づいた、その時だった。

初めて、列が二つあることに気付いた。

混雑していて、後ろからでは全く見えなかったのである。
私が並んでいたのは、五百円のサービス品だけを買う列。
箱入りの桃を買う人は、別の列だった。
もう一度最後尾へ並ぶしかなかった。
また一時間である。

正直、悔しかった。
列の説明が一言あれば避けられた二時間だった。
暑さよりも、そのことが堪えた。

半分は馬鹿らしくなり、半分は涙が出そうになった。

それでも、ここまで並んだ時間を無駄にはしたくなかった。
歯を食いしばって、もう一度列に並んだ。
ようやく順番が近づいた頃、
「一人一箱まで。」
という制限が掛かった。
一時間前なら「お好きなだけどうぞ。」だった。

夫婦なら二箱。
ところが家人はまだ駐車場に入れないようだ。
事情を説明していると、ちょうど家人が現れた。
何とか二箱だけ買うことが出来た。

私が荒川まで来る理由は一つ。
桃のコンポートを作るために、B級品を箱で買いたいからである。
それなら農園に並ぶ必要はなかった。
でもついつい農園の桃も味わいたいと欲が出るのだ。

帰りに立ち寄った「よってって貴志川」には、茶箱が山積みになっていた。
思わず苦笑いした。

来年から、この行列にはもう並ばないだろう。
いや、もう並べないのかもしれない。
今日の疲れは、きっと一週間は残ると思う。

少し悔しくて、少し寂しい。
それでも、今年も荒川まで来られた。
家人と二人で桃の季節を迎えられた。

そのことだけは、覚えておこうと思う。

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