ねむの木子ども美術館『どんぐり』へ――20年越しに出会った安らぎの場所

ガーデニングミュージアム花遊庭 まで来たなら、そこからさらに100キロ先、どうしても足を伸ばしたい場所があった。
ねむの木こども美術館 どんぐり である。
ここは、私の大好きな建築家 藤森照信さんが20年ほど前に設計した美術館だ。
2000年頃、家人はまだ現役で、東京と大津を往復する忙しい日々を送っていた。
その頃、掛川にある ねむの木学園 に立ち寄ることが何度かあった。
もっとも、掛川の町に漂う“うなぎを焼く匂い”に誘われた部分も大いにあったのだけれど。
訪れるたび、子どもたちの絵に心を動かされた。
不思議と人を癒やす力があり、気がつけば長居してしまう。そんな居心地のよい場所だった。
その後、足が遠のいて20年。
気になっていた藤森さん設計の「どんぐり美術館」に、今回ようやく訪れることができた。
細い上り坂を進んだ先に、美術館は建っていた。
対向車もなく、周囲は驚くほど静かである。
駐車場から、建物の一部が見えた瞬間、思わず立ち止まった。
想像していたより、ずっと大きい。

広い芝生の向こうに建つ建物は、白とブラウンを基調にした落ち着いた佇まいだった。
形はユニークなのに、不思議と周囲の風景に溶け込んでいる。
屋根の上には木が植えられ、その屋根は手捻りの銅板で葺かれている。
外壁には焼杉が使われ、そこに漆喰の白が挟まることで、黒と白の美しいコントラストが生まれていた。
「ついに来た」
そんな思いで重たい扉を開けた。
受付を済ませると、そのまま建物を通り抜け、外へ出る動線になっている。
そこで初めて、“どんぐり”の全景が現れた。

想像以上にユニークだった。
横から見る。
少し歩いて角度を変える。
また違う表情になる。

建築そのものが生き物のようで、見ていて飽きない。
芝生をぐるりと一周すると、自然に美術館入口へ着く。

内部は撮影禁止だったので、代わりに何枚かポストカードを買った。
けれど、子どもたちの絵は、原画の迫力や空気感が大きすぎて、小さなカードには到底収まりきらない。
そのことが残念でならなかった。

「お母さん、お元気ですか。僕は元気です」
そんなタイトルを見ただけで胸が詰まる。
ここでいう“お母さん”は実のお母さんなのだろうか。それとも、 宮城まり子 さんのことなのだろうか。
ある緻密な絵には、
「三年もかかったから題は忘れちゃった」
と添えられていた。
思わずくすっと笑ってしまう。
けれど、その一言の奥に、その子の時間や集中や思いが見えてくる。
しかも、その絵は誰にも真似できるものではなかった。

館内には「まりこさん」と題された作品が多く並んでいた。
どれだけ深い信頼と愛情がそこにあったのだろう。
宮城まり子さんが情熱を注いで育てた国内初の肢体不自由児療護施設ねむの木学園は、子どもの感性を絵や音楽などで育む独自の教育に尽力し、今もなお多くの“天才”を生み出している。
改めて、宮城まり子さんという人を尊敬せずにはいられなかった。
施設を作り、運営を人に任せる人はいる。
けれど、まり子さんは違った。
子どもたちと一緒に絵を描き、歌を唄い共に時間を過ごし、途中で逃げることなく、生涯をかけて向き合った。
本当にかなわない人だと思う。
純粋な絵。
大好きな建築。
館内に漂うやわらかな光と安らぎ。

そこへ辿り着くまでの時間も含めて、すべてが重なり合い、至福のひとときとなった。
コメント
この記事へのトラックバックはありません。













素敵な所を教えて下さりありがとうございました
ねむの木学園、宮城まり子さんは名前だけしか知りませんでしたが、谷口さんが夢中になられた事理解出来ますね~
ワクワクしてきました
ねむの木学園に一歩入ると、ちょっと大袈裟ですが人生観が変わります。