坐骨神経痛と梅しごと 〜家時間の革命〜

六月に入ると、雑誌という雑誌がこぞって「梅しごと特集」を組む。梅ジュース、梅酒、梅干し。
読んでいるだけでこちらの手が酸っぱくなるラインナップである。毎年、友人たちは実にマメに梅を洗い、ヘタを取り、瓶を磨き、意気揚々と梅と格闘している。一方の私はといえば、「そういうの、得意な人がやること」と割り切り、たまに届く梅干しや梅エキスをありがたく頂戴するだけの傍観者であった。
ところが、である。今年は事情が違う。坐骨神経痛のため、外出の回数がかなり減った。否応なしに家で過ごす時間が増え、これまで敬遠してきた「家しごと」と真剣に向き合う羽目になった。しかも困ったことに、時間だけはやたらとある。
そんな中、金沢の貴船でのひとときが思い出された。食事の前に飲み物を聞かれるのだが、私はこれまで無難に「ジンジャーエール」と答えていた。しかし、ある日ふと「ノンアルの梅酒」にしてみたところ、これが実に美味であった。舌の奥に広がるまろやかな酸味と、微かな渋み。気づけばすっかり梅酒の魅力にとりつかれていた。
こうなると話は早い。道の駅で見つけた南高梅1kgを衝動買い。まずは丁寧に洗い、ざるに並べて追熟させた。数日経つと、梅は見事な色合いに変わり、少し動かすだけで芳醇な香りが立ちのぼる。その香りたるや、しびれるように心地よい。こうなるともう、愛着すら湧いてくる。
瓶を熱湯消毒し、梅と同量の氷砂糖を投入。おお、これが「梅しごと」なるものか、と初心者ながらに悦に入る。気になって仕方がないので、数時間おきに瓶をガサゴソ動かす。夕方には、ほんの少しではあるが梅エキスが底に溜まり始めた。
浮かれていたところ、今になってレシピを検索してみると「リンゴ酢を加えると発酵防止に良い」との情報に遭遇。なるほど。梅も腐る時代、慎重に越したことはない。まだ間に合うはずだ。明日はリンゴ酢を買いに行こう。
ちなみに今年はぬか漬けも絶好調である。胡瓜が安いのも嬉しい誤算。家時間が、こんなにも豊かに感じられるとは思ってもみなかった。これはひとえに坐骨神経痛という「強制終了ボタン」が与えてくれた副産物——まさに「怪我の功名」である。
動けぬなら、動かぬ場所で世界を拡げよう。今、私は梅しごとに目覚めている。
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