秋、そろりと暮らしに降りて

季節の変わり目は、暮らしの中に小さな動きを生む。
台所に立てば、湯気の向こうに秋の気配が見える。
朝、窓を開けると、風がひんやりとしていて、びっくりする事もある。
今年の秋は、まさに急転直下であった。
一夜にして空気が替わり、夏の名残がすっと消えた。
ついこの間までは、軽い夏蒲団に足の先を入れるだけで眠れていた。
それが今では、大きな布団を出したくなるほどである。
秋の空は、いつも美味しいものを連れてくる。
松茸には手が出ないが、ありがたいことに自家製の舞茸を頂いた。

油をひいた鍋に舞茸を入れると、ジューッという音とともに香ばしい香りが立ちのぼった。
台所に広がる香りは、それだけでご馳走である。
シャキシャキとした歯応えに、ほのかな苦みと土の香り。
ひと口で、ああ、今年も秋が来たのだと思った。
庭からは、いつもの「ホトトギス」が咲いたとの知らせも届いた。

紫の花びらが少しずつ開いていくのを見ると、季節の歩みを感じる。
花器に挿して玄関に置くと、ふっと周囲の空気が柔らかくなる。
あれほど長く、終わりの見えなかった夏の暑さは、
今ではまるで遠い昔のことのようだ。
冷たい空気が頬を撫で、夕暮れが早くなり、
煮物の鍋から立つ湯気が心地よい。
秋は確かにやって来た。
歓迎こそするが、できることなら、もう少しそろりと来てほしいものである。
コメント
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美しい言葉で! 秋の風情が余計に感じられますが!一杯 綺麗で魅力的なものに囲まれてますね
明子さん、コメントをいつもありがとうございます。秋は美味しいもの、美しい風景に世界が変わりますね。暑い夏が終わりホッとします。