タンゴに酔った夜

アストロリコは、1991年に京都で結成された、日本を代表するアルゼンチン・タンゴ楽団である。
スペイン公演、アルゼンチン公演でも高い評価を受け、
現地メディアからは「驚異的な偉業を成し遂げた日本人グループ」と称賛された。

関西を中心に活動されているので、年間に数度、演奏を聴く機会がある。
今回は、二月以来、四か月ぶりの演奏会だった。

タンゴファンなら、「アストロリコ」と聞くだけで、バンドネオン奏者・門奈紀生さんの姿が浮かぶ。
普段は寡黙で物静かな方である。
けれど、「黄金の左腕」と呼ばれるその指先がバンドネオンに触れた瞬間、豊かで艶のある音色が一気に客席を包み込む。

最初の曲は「エル・チョクロ」。
規則正しく刻まれるタンゴのリズムが、体中に沁み込んで来るようだった。
タン、タン、タン――。
あの独特のリズムが始まると、会場全体が一気にタンゴの世界へ引き込まれていく。

切り裂くようなヴァイオリン。
地を這うようなベース。
華やかなバンドネオンとピアノ。

それぞれが激しくぶつかり合いながら、ぴたりと一つになる。

結成から三十年以上。
メンバーは「もうヴィンテージです」と笑わせていた。
けれど、そのヴィンテージの実力は圧巻だった。

ヴァイオリンの弓が絃に触れた瞬間、
バンドネオン、ピアノ、ベースが、寸分の狂いもなく音を重ねて来る。
その心地よさと言ったらない。
タンゴは、大人の心にこそ深く響く音楽なのだと思う。

そして、良い演奏会は演奏者だけでは完成しない。

歌舞伎の掛け声のように、
「ここだ」という瞬間に客席から声が飛ぶ。
その掛け声が、ステージと観客を一体にしていく。

演奏者が上手いだけでは、本当に良い舞台にはならない。
いいステージは、観客が作るのだ。

二時間の演奏会は、今までにないほど盛り上がった。
シルバーエイジの大人たちが、まるでハイティーンに戻ったような熱気だった。

外は雨だった。

けれど心は不思議にホカホカして、そのまま夜の家路を急いだ。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

関連記事

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

skogBLOG内の記事検索

カテゴリー

過去の記事

生活・文化の情報収集

ブログランキングで生活・文化関連の情報を収集できます!
ページ上部へ戻る