「急に具合が悪くなる」を観て

若い友人から、
「きっとお好きだと思います。」
そう勧められて観た映画が『急に具合が悪くなる』だった。
題名だけでも気になる映画だが、内容は想像以上に難解だった。
原作は哲学者と人類学者の往復書簡。
パリの介護施設を舞台に、理想の介護を目指すマリールーと、末期がんの哲学者・真理が偶然出会い、一晩中語り合う。
テーマは介護だけではない。
権力と自由、資本と労働、人が人を支えるということ。
その周りになるエピソードが多岐にわたり、ゆっくり鑑賞するよりも一つの問いを考えているうちに、次の問いが現れ、最後まで頭を休める暇がなかった。
印象に残ったのは、マリールーが理想を追い求めるあまり、自分自身が知らないうちに「権力を持つ側」になっていたことを真理から指摘される場面だった。
正しいことをしようとする人ほど、その立場に気づきにくい。
「怒らないでね。あなたとソフィー(マリールーのやり方に抵抗する看護師)さんは、とてもよく似ているわ。」
その一言が、物語を大きく動かした。
その後、真理は急に具合が悪くなり、この世を去る。
映画の題名は、その出来事を指しているだけではないように思えた。
人は、自分の立っている場所が揺らいだ時にも、「急に具合が悪くなる」のではないだろうか。
自分は正しいと思っていた世界が反転する。
その衝撃を受け止めることは、身体の不調にも似た苦しさを伴う。
けれど、その先にしか見えない景色があることも、この映画は伝えていた。
劇場を出ると、時計は午後十時近くを指していた。
大津の夜は静かだった。
映画は終わったのに、頭の中ではまだ哲学者と人類学者の対話が続いていた。
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