知らぬ間に、平岩弓枝の世界へ

最近、心を掴まれる小説に出会うことが少なくなり、本棚も静まり返っていた。
そんな折、ふと手に取った一冊「女の家庭」が、思いがけず新しい扉を開いてくれた。
手元にあったその本。
買った覚えも読んだ記憶もないのに、いつの間にか本棚に紛れ込んでいた。
その不思議さに惹かれ、軽い気持ちでページを開いたのが始まりである。
読み進めるうちに引き込まれ、気づけば寝不足。
ベッドの中だけが読書の時間である私が、三日ほどで一気に読了してしまった。
昭和の時代の嫁姑、小姑が絡む家庭の物語。古風ではあるが、今の時代にも通じるものがある。
特に印象に残ったのは、言葉の美しさである。
丁寧で品のある会話が、主人公の実家がある京ことばで語られる時、その柔らかい言葉の端々に里の家族の情が滲み出ている。
テレビの普及によるものか、京都に居ても「京ことば」を耳にすることは無くなっているのが実情である。
そんな中、言葉の響きの美しさは「京都にある」としみじみ味わえた。
昭和50年代という時代背景の中で、海外生活の華やかさと家庭内の陰が交錯する。
現実であれば息が詰まりそうな人間模様も、小説という形だからこそ味わえる面白さがある。
気づけば、長らく“空き家”のようになっていた私の本棚に、新しい作家が滑り込んできた。
好きな作家の作品を片っ端から読み尽くしていた私にとって、これはうれしい出会いである。
勢いのままに、七冊をまとめて購入。
しばらくは、平岩弓枝の世界に浸る日々が続きそうである。
本との出会いとは、いつも唐突で、少し運命めいている。
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