手仕事を結ぶ庭 ‐ 稲垣 早苗

千葉県市川市にあるニッケ鎮守の森で開かれた「工房からの風」に出かけた折にこの本と出会った。
工房からの風は何かの折にホームページにヒットして以来、気になる展覧会だった。

今年になって「風の音」という小冊子を2年間無料で配布されることとなり、応募した。
2回送られてきた冊子の終わりには工房からの風ディレクターさんが書かれた文章がある。
風景も音も色も形も見えてくるリズムのある文章だった。
本文の作家紹介記事も、作り手の気持ちに寄り添い、使い手にそれを伝えて行く文章が丁寧に綴られていた。
私も、企画展の折に作家紹介のブログを書くけれど、及びもつかない。
「手しごとを結ぶ庭」とは、作り手を使い手に、作り手同士をそして、使い手から作り手への思いを結ぶ庭の事。

この本を購入した時、「私が著者です」と声をかけられてドキッとした。
サインをお願いすると、気軽に応じてくれた。
そしてサインの上に新しい紙を置き、サインがにじまないように配慮した。
この心遣いがまた嬉しかった。

この本は稲垣さんが工芸とどう関わってきたかということが最初のきっかけから書かれている。
稲垣さんは、俳句を深めたくて金沢に住むことにした。
金沢に旅行中、朝餉の支度をする家からごぼうの匂いが流れてきたのが金沢に住む決めてとなったらしい。
日常の音や匂いが次の行動のきっかけになることは私にも多々ある。
ここ数年間は、小説ばかり読んでいるのでノンフィクションの興味は薄くなっていた。
ところが、久しぶりに読んだ稲垣さんの文章の美しさに惹きつけられて、短い時間で読んでしまった。
それを誰かに伝えたくて、Nさんにこの本を薦めた。
Nさんにお貸しするとなると手放し難く、それからもう一度読んで漸くお貸しできた。
小説でも2回読んだ本はないというのに。

話の展開の面白さもある、けれど言葉をこれほど美しく紡ぐ人に初めて出会った感動が一番大きい。
使い古された言葉はどこにもなく、稲垣さんでなければ出てこない瑞々しい言葉で綴られている。
おいしい水が全身に流れるような本だった。

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