終わらざる夏 ‐ 浅田次郎

「終わらざる夏」本のタイトルを読めば、日本が敗戦した第二次世界大戦の話だろうと想像はついた。
が、浅田次郎が第二次大戦の経緯だけを本にするわけがない。
どこかでドッと泣かせてくれるのだろうと読み始めた。
登場人物は沢山いるけれど、主役は、翻訳書の編集者である45歳の片岡直哉だろうか。
片岡は昭和20年6月、近いうちに終戦の聖断が下がる事を前提に和平のための通訳として召集された。
勿論、片岡にはそういう事は伝えられていない。
第二次大戦の終戦後に日本の一番北の島で硫黄島やサイパンとも違う悲劇の戦いがあったことを知らねばならない。
ソ連が8月9日に日ソ中立条約を一方的に破棄して満州に攻め込んだことは知られている。
しかし、ソ連は、8月18日未明、日本がポツダム宣言を受諾して無条件降伏をした後になって、新たな戦争を仕掛けてきた。
小さな島が連なる千島列島の一番奥の島が小説の舞台になる占守島
この島には通訳の片岡と青年医師菊池と富永熊男軍曹が送り込まれた。
物語はその3人に関わる家族の物語を中心に戦時中の市井の人々の暮らしを丁寧に描いていく。
けれども、主題は戦後に起こったもう一度の戦争。
勝つことを許されず、無条件降伏するしかない軍隊の悲劇は読むのが辛い。
占守島には日露漁業の工場労働者やこの缶詰工場で働く女子挺身隊の少女400人がいた。
そしてこの島にはアメリカの上陸を防衛するために二万三千人の将兵を擁する精鋭部隊がいた。
八千八百のソ連上陸部隊を打ち負かすことはたやすいことだった。
少女たちを北海道まで送り、明治8年に樺太、千島交換条約によって平和的に定められた日本の領土を守ろうとすると当然に戦いは始まる。

しかし、既に無条件降伏をしている日本はこの戦いに勝つことは許されなかった。
新たに攻め込むソ連との戦いで死にゆく理不尽、残された兵士はソ連軍の兵士に多大な損傷を与えたということでシベリアに送られ、凍土で果てていった。
この本は浅田次郎の小説なので、すべてがこのままであった訳ではない。
あまりにリアルに書かれているのでフィクションとノンフィクションの境がわからない。
つい今のロシアについても幾分の偏見が生まれそうな気配がある。
この本については解説を書いた「梯 久美子」さんの文章にすべてがまとめられていて、何を書いても彼女の文章を借りているようになってしまう。
久しぶりに重たいテーマの小説を読んだ。

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